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財務デューデリジェンス(財務DD)によるM&Aのリスクマネジメントが成功のポイント。
大阪・東京の税理士法人MFMグループ(四大監査法人出身の公認会計士在籍)

飲食店のM&Aの特色

飲食店の経営環境

外食産業は、1990年代後半から市場規模が減少傾向でしたが、東日本大震災後は徐々に拡大傾向にあり、日本フードサービス協会の調べによると2018年の外食産業の市場規模の推計値は前年比0.3%増の25兆7692億円となっています。
飲食店を含むサービス業全体の市場規模も拡大傾向にあります。

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出展:経済産業省資料「ものづくり白書」

飲食店の後継者問題

帝国データバンクの2019年の調査によると、後継者が決まっていない後継者不在率は日本全国で65.2%となっており、3社に1社しか後継者がいない計算になります。
その中で、飲食店を含むサービス業の後継者不在率は約70%となっており、全国平均に比べるとかなり高い比率の業種ということができます。

日本は少子高齢化が進んできており、多くの飲食店のオーナー経営者も年々高齢化しています。
年齢を重ねて気力・体力に衰えを感じ世代交代の時期を迎えている経営者は、経営のバトンタッチをしなければならないものの、近年は後継者問題に直面している飲食店が少なくありません。
昔の中小企業では、息子や娘婿などの親族の後継者に事業を承継するのが一般的でしたが、現在ではそのような形の事業承継は容易ではありません。
まず、息子や娘婿などの跡取りがいない場合があります。
また、跡取りがいたとしても本人が事業を継ぎたがらないケースもあるでしょう。
さらに、息子や娘婿などが経営者としての能力が不足しているケースや、現在の厳しい経営環境下では会社の舵取りが大変であり親のエゴだけで息子を経営者にさせるのはかわいそうと思われる方もいます。

こうした後継者問題を解決するために、その企業の経営を引き受けたいと名乗り出た外部の第三者に対して事業を譲渡する、いわゆる事業承継型M&A(Mergers and Acquisitions)が近年増加してきています。
第一候補であった息子や娘婿などの親族への事業承継の道が閉ざされてしまい、第二候補であった役員や従業員への事業承継が困難な場合、今後の飲食店の存続や発展を考えると、企業外部の第三者への事業の譲渡は合理的な選択であるともいえます。
特に後継者問題に直面している中小企業において、その問題をすべて解決できる有力な選択肢として、今日ではM&Aの活用が年々進んでいます。
M&A(Mergers and Acquisitions)市場において、全体の件数に占める飲食店を含むサービス業の割合が約3割程度と高くなってきています。

後継者不在の飲食店の場合、M&Aで事業を売却することにより、ハッピーリタイアすることができるのです。

中小企業の事業承継系M&Aの推移

年度事業承継系M&Aの件数
2013233
2014235
2015263
2016299
2017321
2018546
2019616

出展:2020年度版「中小企業白書」

飲食店のM&Aのデューデリジェンスの特色

飲食店のM&Aのデューデリジェンスの特色としては、規模によりますが検討すべき事項が多いことです。
特に複数店舗展開しておりセントラルキッチンがある場合、かなり多くの事項を検討する必要があります。
すべての会社に当てはまりませんが、検討すべき事項を他の業種と比較して下の表に簡単にまとめました。

飲食店不動産業製造業
固定資産
技術・人材
顧客
在庫
特許・ブランド
飲食店

飲食店では、テナント物件の内外装費用や厨房設備は必要ですが、セントラルキッチンがあるような場合を除いて大きな不動産や機械装置は必要ありません。
飲食店も人手不足のため、M&Aがきっかけで重要な人材が流出してしまわないように十分配慮する必要があります。業態によっては料理人の腕がとても大切になってきます。
既存のお客さんは大切にしなければいけませんが、売上の何割も占める大口の顧客はいません。
在庫はありますが、セントラルキッチンがあるような場合を除いて製造や原価計算は必要ではありません。
老舗や有名店になるとそのお店の名前に大きな付加価値があります。商標権などの知的財産を持っていることも少なくありません。

不動産業

不動産業では、不動産という大きな固定資産はしっかりと検討する必要がありますが、それ以外の有形・無形の固定資産はそれほどありません。
従業員数は少なく、M&Aが契機でテナント契約が解除されるというリスクも少ないです。
在庫ありませんし(販売用不動産は除きます)、知的財産も持っていないことが多いです。

製造業

工場の土地・建物・機械装置があるため、自社所有であっても賃貸(リース)であっても検討が必要です。
製品の製造には熟練の技術が必要なことがあり、また、製造のために多くの従業員を抱えている必要があります。M&Aがきっかけで熟練の技術や重要な人材が流出してしまわないように十分配慮する必要があります。
大口の得意先がいる場合が多く、M&Aが契機となりその顧客との契約が解除になってしまわないように、慎重にM&Aを進めなければなりません。
製品、原材料、仕掛品といった在庫を保有しています。また、適正な在庫評価を行うために原価計算を理解する必要もあります。
製造やその製品に関して特許権や商標権を持っていることがあります。また、食品製造業や化粧品製造業などではブランド名に価値があることもあります。このような特許権や商標権といった知的財産についても検討する必要があります。

このように、「飲食店のM&Aのデューデリジェンスでは、規模によっては確認する必要のある資産や書類がかなり多い」ということをまず念頭に置いておかなければなりません。
飲食業は、材料費率や人件費率(FL比率)や家賃比率がある程度決まっている業種です。
また、財務デューデリジェンス(財務DD)の範囲ではありませんが、飲食店は立地も経営上とても大事ですので、M&Aを行う場合はしっかりと事業のデューデリジェンスを行う必要があります。

M&Aで一番と言ってもよいほど怖いリスクは、簿外債務や偶発債務です。
企業を買収した後で簿外債務が発見された場合、買主はその債務を支払う義務があるため大きな損害を被ることになります。
この簿外債務の有無の検討はどの業種のM&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)でも共通して必要な事項であり、またその検討は公認会計などの専門家が行ってくれるため、このコラムでは深く触れていません。
簿外債務については、コラム「M&Aのデューデリジェンスにおける簿外債務(隠れ負債)の発見方法」を参照ください。

本題の外食産業の経理担当者から見たM&Aのデューデリジェンスの注意点について見ていきます。

固定資産

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内外装費用

飲食店は店舗のクレンリネスは大切ですが、内外装が新しければお客さんが来てくれるというものでもありません。
店舗の改装には多額の投資が必要となるため、基本的には使えるものはそのまま使うというスタンスのケースが多いように見受けられます。

多店舗展開している場合、中には不採算店もあります。
不採算店を閉鎖する際には、賃貸借契約書に原状回復義務の記載があれば、返還前に原状回復を行う必要があります。
契約期間中の中途解約であれば、違約金が支払う必要があると賃貸借契約書に記載されているかもしれません。
M&Aの成立後、事業のリストラクチャリングを実施する際に、どのような費用の支出が臨時で必要であるかを事前に確認しておく必要があります。
もし、M&Aで多額の取得費用を支払った後に更に想定外の多額の費用が必要になったのでは、会社の経営上よくありませんし、現場に行った経理担当者として責任を全うしていると言うことができません。
M&Aの早い段階で資料依頼をして検討しておきましょう。
コラム「財務デューデリジェンスと事前依頼資料」

セントラルキッチン

多店舗展開している飲食店の場合、セントラルキッチンを持っている場合があります。
セントラルキッチンには土地・建物・機械装置があるため、自社所有であっても賃貸(リース)であっても検討が必要です。
例えば、賃貸(リース)の残存期限が10年だった場合、10年後には原状回復して退去しなければならない可能性があります。
現時点では貸主は契約を更新しても大丈夫という意向だったとしても、10年後のことは本人ですら分かりません。
もしかすると将来、貸主でもM&Aがあり貸主が変更する可能性もあります。
現状とはまったく状況が違ってしまい、新しい貸主からこの契約満了を持って退去してくれと言われてしまうかもしれません。
そうなると、会社としてM&Aで大きな損害を被ってしまいます。

技術・人材

キーパーソン

料理を作るため、他の従業員を繋ぎとめるため、店舗開発・メニュー開発を行うため、それぞれ重要なキーパーソンとなる人物がいます。
これらの人物は、M&A成立後もしばらく会社に残って貰わなければ事業の運営が上手くいきません。
その他のキーパーソンを探すには、どのような人材がどの部署にいるか(特に幹部社員)を把握することが重要です。
M&Aが契機となり有能な人材が退職してしまうと計画したような業績を上げることができなくなるため、そのような人材には報酬やポストの面で待遇を良くする必要があるかもしれません。

M&Aのスキームにも関連してきますが、社長に今後も事業に携わってもらうのであれば、M&Aの対価を、①株式取得費用として支払うのか②退職金として支払うのか③今後数年間の報酬として支払うのか、①~③をミックスして複数の方法により支払うのか、など税務的な検討も必要になります。

従業員

IT技術の進歩により店舗の省人化が進んできていますが、サービス業はどうしても人手が必要です。
今は人材募集が大変な時代であるため、M&Aが契機となり複数の従業員が退職してしまう事態になると多くの時間とコストが多くかかってしまいます。
M&Aの情報が従業員に漏れてしまい精神的に動揺してしまうと退職のおそれがあります。
締結した秘密保持契約はしっかりと遵守しましょう。
コラム「秘密保持契約書とは」

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在庫

外食産業は在庫を保有しておりその実在性を確認する手続が必要になります。
在庫の中には余剰在庫や滞留在庫があるかもしれません。
実在しない在庫が計上されているおそれもあります。
棚卸資産回転期間などの分析を実施することにより、業界平均と比較して在庫の残高が多いのか少ないのかが分かります。
セントラルキッチンがある場合、在庫評価を行うためには原価計算を理解する必要もあります。
コラム「棚卸資産回転期間の業種別適正水準と改善方法」

特許・ブランド

老舗や有名店になるとそのお店の名前に大きな付加価値があるため、商標権を持っていることがあります。
集客できる強くて魅力的な看板メニューがあれば、そのメニューに商標権を持っていることもあります。
集客力のある看板メニューは、ライバル店は真似しようとします。
残念ながら外食産業は模倣がとても多い業界です。
そのような競合を抑えるという意味では「商標登録」がとても有効なのです。

飲食店業界には、商標法や不正競争防止法に関して有名な裁判例がいくつもあります。
□堂島ロール事件(堂島ロールと堂島プレミアムロール)(2018年)
□コメダ珈琲事件(コメダ珈琲とマサキ珈琲)(2016年)
□面白い恋人事件(白い恋人と面白い恋人)(2013年)
□モンシュシュ事件(ゴンチャロフとモンシュシュ)(2013年)
□どん兵衛事件(2010年)
□スターバックス事件(スターバックスとエクセルシオール)(2010年)
□かに道楽事件(かに道楽とかに将軍の動くカニ看板)(1981年)
コラム「商標登録と商標権の侵害」

M&Aで成功するためには、このような知的財産やブランドを適正価値で購入する必要があります。
知的財産やブランドの適正な価値を算定するのはとても困難ですが、過大評価して高値掴みしないようにしなければなりません。

会社ごとM&Aする場合は特許権や商標権といった知的財産も自動的に譲渡されますが、事業譲渡を行う場合は知的財産を個別に譲渡する手続も必要になります。

外食産業のM&A最新情報

2020.3.18 「アークランドサービスホールディングス株式会社 株式会社ミールワークスの株式取得(子会社化)」

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初めてM&Aの調査業務をされる会計事務所様や税理士事務所様からのご相談も承っています。クライアント様の情報を頂くことなく財務デューデリジェンスや企業調査を実施させて頂きますので、同業ですが安心してお任せ頂けると思います。決算書や申告書のチェックは先生が実施されて足りないと思われる部分だけお手伝いさせて頂く方法など、柔軟的な対応も可能です。

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税務デューデリジェンス(税務DD)は税の専門家である税理士に依頼するのがよいでしょう。
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