不動産業の(への)事業再構築で補助金は受給できるのか!?

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事業再構築補助金とは

事業再構築補助金とは、新事業分野への進出等の新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援するための補助金です。
この事業再構築補助金は、2020年12月15日に閣議決定された令和2年度第3次補正予算に初めて盛り込まれた補助金です。
予算額は1兆1,485億円となっており、かなり大きな予算が割り当てられている補助金となっています。
正式名称は「中小企業等事業再構築促進事業」です。

コロナ禍における不動産業

このような大きな予算が割り当てられた新しい補助金制度ができたのは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響に他なりません。
新型コロナウイルスにより景気が悪くなると、テナントからの値下げ要求やテナントの撤退、不動産価格の下落などにより不動産業界も影響を受けてしまっています。
事業再構築補助金の対象要件は売上⾼の10%以上の減少ですが、この要件に当てはまる不動産業を営んでいる事業者もおられます。
特にインバウンドを対象にした不動産業にその影響が大きく出てしまっています。
3月17日に「事業再構築指針」「事業再構築指針の手引き」が公表され、不動産業の事業再構築の取扱いが一部明らかにされました。
このコラムでは、不動産業が事業再構築補助金を使うことができるのか、また不動産業への事業再構築で事業再構築補助金を使うことができるのか、について説明・考察しています。
なお、文中の意見の部分は、筆者の私見であることをお断りします。

事業再構築指針の手引きにおける不動産業の記載

手引きにおける不動産業の新分野展開の例

事業再構築指針の手引きでは、不動産業の新分野展開の例として、「都心部の駅前にビジネス客向けのウィークリーマンションを営んでいたが、テレワーク需要の増加を踏まえて、客室の一部をテレワークスペースや小会議室に改装するとともにオフィス機器を導入し、3年間の事業計画期間終了時点で、当該レンタルオフィス業の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定している場合。」が挙げられています。
この例は、不動産業が業種を変えることなく事業再構築を行い、事業再構築補助金を活用しているという例です。
ただしそのためには、いくつか超えなければならない壁(要件)があります。

手引きにおける不動産業の新分野展開の例の要件

要件1.製品等の新規性要件要件①過去に製造等した実績がないこと過去にレンタルオフィス業を営んだことがなければ、要件を満たす。
要件②主要な設備等を変更することレンタルオフィス業を始めるため、新たに客室の改装やオフィス機器の導入が必要であり、その費用がかかる場合には、要件を満たす。
要件③競合他社の多くが既に製造等している製品等ではないこと都心部の駅前にビジネス客向けのウィークリーマンションを営んでいる競合他社の多くが、レンタルオフィス業を営んでいないを説明することで、要件を満たす。
要件④定量的に性能又は効能が異なること(計測できる場合のみ)ウィークリーマンションとレンタルオフィスでは、提供するサービスの種類が異なり、定量的に性能又は効能を比較することが難しいことを示すことで要件を満たす。
要件2.市場の新規性要件既存製品等と新製品等の代替性が低いこと(必須要件)ウィークリーマンションとレンタルオフィスは、関係性が薄いサービスであり、新たにレンタルオフィスを始めたことで、ウィークリーマンションの需要が代替され、売上高が減少するといった影響が見込まれないと考えられることを説明することで、要件を満たす。
既存製品等と新製品等の顧客層が異なること(任意要件)例えば、ウィークリーマンションの顧客層は、地方(遠方)のビジネスマンであるのに対し、レンタルオフィスの顧客層は、近隣のビジネスマンであることを示すことが考えられる。
要件3.売上高10%要件3~5年間の事業計画期間終了後、新たな製品等の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定すること3年間の事業計画期間終了後、レンタルオフィス業の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定することで要件を満たす。

不動産業内で新分野展開を行うために越えなければならない壁

新分野展開の要件1.製品等の新規性要件-①過去に製造等した実績がないこと

不動産業にあてはめると、過去にその事業(不動産売買、不動産仲介、オフィス賃貸、住宅賃貸、駐車場賃貸、不動産管理など)を営なんでいたことがあってはいけません。
総合不動産会社で、売買、仲介、各種賃貸、管理業務などの業務を多く手掛けている会社であれば、不動産業内で新分野展開を行うのは難しいかもしれません。
また、高級リフォーム・リノベーションを行い高級路線に変更する場合、それが新商品・新サービスになるのか、また代替性が低く市場の新規性要件を満たすのかという議論があります。

新分野展開の要件1.製品等の新規性要件-③競合他社の多くが既に製造等している製品等ではないこと

手引きの例のマンション賃貸からレンタルオフィスへの新分野展開であれば比較的簡単に競合他社要件を満たしていることを示すことができますが、その他のケースでは競合他社要件を満たしていることを示すにはハードルが高くなるケースもありそうです。
例えば、オフィス賃貸から住宅賃貸への新分野展開を模索している場合、近辺のオフィス賃貸を営んでいる事業者の多くが住宅賃貸を営んでいないということを示さなければなりません。

コラム「事業再構築補助金の新分野展開の3要件とあてはめ方」

首相官邸の連絡会議資料(令和2年12月)における不動産業の記載

令和2年第3次補正予算が閣議決定される前に公表された首相官邸の連絡会議資料では、事業再構築の具体事例として下記の記載がありました。

宿泊業・・・宿泊客数が激減し、ホテルの稼働率が低下している中、テレワーク拡大を受けて、客室をテレワークルームやコワーキングスペースに改造し不動産賃貸業に業種転換。

この首相官邸資料の例は、不動産業以外の業種が事業再構築を行うことにより、不動産業への事業転換で事業再構築補助金を使うことができるとしているものです。
その後に公表された資料では同様の例は示されていません。
また、公募要領において、「専ら資産運用的性格の強い事業」に該当する事業計画である場合には、不採択又は交付取消となるとされています。
そのため、不動産業以外の業種が行う不動産業への事業再構築については、ハードルが上がることが考えられます。

経済産業省のリーフレットにおける不動産業の記載

経済産業省のリーフレットにおいて、中小企業等事業再構築促進事業(事業再構築補助金)の活用イメージとして15の例が記載されています。

飲食業(喫茶店経営)

飲食スペースを縮小し、新たにコーヒー豆や焼き菓子のテイクアウト販売を実施。

飲食業(居酒屋経営)

オンライン専用の注文サービスを新たに開始し、宅配や持ち帰りの需要に対応。

飲食業(レストラン経営)

店舗の一部を改修し、新たにドライブイン形式での食事のテイクアウト販売を実施。

飲食業(弁当販売)

新規に高齢者向けの食事宅配事業を開始。地域の高齢者化へのニーズに対応。

小売業(衣服販売業)

衣料品のネット販売やサブスクリプション形式のサービス事業に業態を転換。

小売業(ガソリン販売)

新規にフィットネスジムの運営を開始。地域の健康増進ニーズに対応。

サービス業(ヨガ教室)

室内での密を回避するため、新たにオンライン形式でのヨガ教室の運営を開始。

サービス業(高齢者向けデイサービス)

一部譲渡を他社に譲渡。病院向けの給食、事務等の受託サービスを新規に開始。

製造業(半導体製造装置部品製造)

半導体製造装置の技術を応用した海洋風力設備の部品製造を新たに開始。

運輸業(タクシー事業)

新たに一般貨物自動車運送事業の許可を取得し、食料等の宅配サービスを開始。

製造業(航空機部品製造)

ロボット関連部品・医療機器部品製造の事業を新規に立上げ。

製造業(伝統工芸製造)

百貨店などでの売上が激減。ECサイト(オンライン上)での販売を開始。

食品製造業(和菓子製造・販売)

和菓子の製造過程で生成される成分を活用し、新たに化粧品の製造・販売を開始。

建設業(土木造成・造園)

自社所有の土地を活用してオートキャンプ場を整備し、観光事業に新規参入。

情報処理業(画像処理サービス)

映像編集向けの画像処理技術を活用し、新たに医療向けの診断サービスを開始。

この事業再構築補助金のリーフレットの15の活用イメージの中には、不動産業が事業再構築補助金の対象業種になるかの記載はありません。
また、転換後の業種として不動産業でも問題ないかどうかの記載もありません。
下から2つ目の建設業(土木造成・園芸)の活用イメージが不動産業に近い感じを受けますが、「観光事業」と記載しているので不動産賃貸業ではありません。

不動産業への事業再構築はOKか

有効求人倍率が大幅に下落し雇用環境が悪化する現在の日本経済において、雇用の機会を減少させる不動産賃貸業への事業再構築というのは、国の景気刺激策としてはあまりよいものでない感じを受けます。
そのため、不動産業への事業再構築であっても要件を満たすのであれば事業再構築補助金の対象になると考えられますが、審査のハードルが少し高くなることも考えられます。

不動産業の事業再構築はOKか

現在不動産業を営んでいる事業者が事業再構築を行い、不動産業以外の業種に進出することに何も問題はありません。
雇用を増加し付加価値額を増加させるような事業再構築であれば、国の景気刺激策として何も問題ないためです。

不動産業内で事業再構築を行うことについては、事業再構築指針の手引きに例示されているように、認められる場合が十分にあります。
一方で、先ほど見たように、不動産業内で新分野展開を行うために越えなければならない壁があることも確かです。

公募要領の公表の時期や事業再構築補助金のスケジュールについては、コラム「【最新】事業再構築補助金の申請はいつからいつまで?」をご参照下さい。

その他の不動産業への影響

事業再構築補助金の対象となる経費は下記の11項目です。
1.建物費
2.機械装置・システム構築費
3.技術導入費
4.専門家経費
5.運搬費
6.クラウドサービス利用費
7.外注費
8.知的財産権等関連経費
9.広告宣伝・販売促進費
10.研修費
11.海外経費(卒業枠、グローバルV字回復枠のみ)

最初に掲げられている建物費の金額はかなり大きくなるため、撤去、改修、新たな建物の建築、新たなテナントの入居などによって、不動産業にとってプラスの影響が大きいと思われます。
ただし、テナントが支払う家賃については対象外となっています。

補助対象経費の活用方法については、コラム「【事業再構築補助金】11の補助対象経費の上手な活用方法」に記載しています。

税理士法人MFM(認定支援機関)
公認会計士・税理士 松浦孝安