事業再構築補助金の新分野展開の3要件とあてはめ方
事業再構築補助金の新分野展開とは
事業再構築補助金の新分野展開とは、主たる業種や主たる事業を変更することなく、新たな製品等で新たな市場に進出することです。
※業種とは、日本標準産業分類の大分類です。
※事業とは、日本標準産業分類の中分類、小分類又は再分類です。
事業再構築指針において新分野展開の定義が記載されていますが、長くて読みにくいため、ざっと理解する上では特に見る必要はありません。
(参考)事業再構築指針における新分野展開の定義
新分野展開とは、中小企業等が主たる業種(売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく大分類の産業をいう。以下同じ。)又は主たる事業(売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく中分類、小分類又は細分類の産業をいう。以下同じ。)を変更することなく、新たな製品を製造し又は新たな商品若しくはサービスを提供することにより、新たな市場に進出することをいう。
事業再構築補助金の新分野展開の3要件
事業再構築補助金の新分野展開に該当するためには、下記の3つの要件をすべて満たす必要があります。
1.製品等の新規性要件
2.市場の新規性要件
3.売上高10%要件
このコラムでは、事業再構築補助金の新分野展開の3要件の内容と、製造業、卸売業・小売業、サービス業・飲食店などを営んでいる事業者がこの3要件に具体的にどのようにあてはめればよいかについて説明しています。
新分野展開の要件1.製品等の新規性要件
新分野展開の要件1の製品等の新規性要件を満たすためには、さらに3つの要件をすべて満たす必要があります。
※「新規性」とは、事業再構築に取り組む中小企業等自身にとっての新規性であり、世の中における新規性(日本初・世界初)ではありません。
①過去に製造等した実績がないこと
過去に製造をしていた製品を再製造してはなりません。
卸売業・小売業の場合は、過去に販売していた商品を再販売してはなりません。
サービス業・飲食店の場合は、過去に提供していたサービス・メニューを再提供してはなりません。
②主要な設備等を変更すること
新製品を製造するための主要な設備や装置が変更されていなければなりません。
卸売業・小売業の場合は、主要なプログラムや施設などが変更されていなければなりません。
サービス業・飲食店の場合は、主要な設備や施設などが変更されていなければなりません。
※主要な設備等の変更の考え方
事業再構築指針の手引きでは、下記の場合は主要な設備等が変更されていないとしています。
例)これまでパウンドケーキの製造の際に用いていたオーブン機器と同じ機械を、新商品である焼きプリンの製造に使用する場合。
③定量的に性能又は効能が異なること(計測できる場合のみ)
製品等の性能や効能が定量的に計測できる場合、性能や効能が異なっている必要があります。
具体的には、既存製品と比べ、新製品の強度、耐久性、軽さ、加工性、精度、速度、容量等が、X%向上する等を事業計画の中で示す必要があります。
事業再構築指針の手引きでは、下記の場合は性能や効能が異なっていないとしています。
例)従来から製造していた半導体と性能にほぼ差のない半導体を新たに製造するために設備を導入する場合。
その他、製品等の新規性要件を満たさない場合
・既存の製品の製造量又は既存の商品若しくはサービスの提供量を増大させる場合(例えば、自動車部品を製造している事業者が、単に既存部品の製造量を増やす場合)。
・事業者の事業実態に照らして容易に製造又は提供が可能な新製品又は新商品若しくは新サービスを製造又は提供する場合(例えば、自動車部品を製造している事業者が、新たに製造が容易なロボット用部品を製造する場合)。
・既存の製品又は既存の商品若しくはサービスに容易な改変を加えた新製品又は新商品若しくは新サービスを製造又は提供する場合(例えば、自動車部品を製造している事業者が、新たに既存の部品に単純な改変を加えてロボット用部品を製造する場合)。
・既存の製品又は既存の商品若しくはサービスを単に組み合わせて新製品又は新商品若しくは新サービスを製造又は提供する場合(例えば、自動車部品を製造している事業者が、既存製品である2つの部品を単に組み合わせたロボット用部品を製造する場合)。
飲食店がテイクアウトや宅配を始める場合の考え方
飲食店が、業態転換ではなく、新分野展開・事業転換・業種転換でテイクアウトや宅配を始める場合、この製品等の新規性要件をクリアしなければなりません。
つまり、①過去に提供していたメニューでなく②設備や施設などが変更されている必要があります。
新分野展開の要件2.市場の新規性要件
新分野展開の要件2の市場の新規性要件を満たすためには、既存製品等と新製品等の代替性が低いことを事業計画において示す必要があります。
市場の新規性要件を満たすためには、新製品を販売した際に、既存製品の需要の多くが代替されることなく、売上が販売前と比べて大きく減少しないことや、むしろ相乗効果により増大することを事業計画において示す必要があります。
既存の製品等とは別の製品等だが、対象とする市場が同一である場合(新製品等を販売した際に、既存製品等の需要がそのまま代替され、その売上が減少する場合)は要件を満たしません。
また、既存の製品等の市場の一部のみを対象とするものである場合は要件を満たしません。
卸売業・小売業の場合は、新商品が既存商品の需要の多くを奪うようなものではいけません。
サービス業・飲食店の場合は、新サービスが既存サービスに取って代わられるだけのようなものではいけません。
事業再構築指針の手引きでは、下記の場合は既存製品等と新製品等の代替性が低いとしています。
例)日本料理店が、新たにオンラインの料理教室を始める場合、オンライン料理教室を始めたことにより、日本料理店の売上は変わらない(むしろ宣伝による相乗効果により上がる)と考えられることから、市場の新規性要件を満たすと考えられる。
例)アイスクリームを提供していた事業者が新たにかき氷を販売する場合、かき氷の提供によりアイスクリームの売上高は減少すると考えられるため、市場の新規性要件を満たさないと考えられる。
例)アイスクリームを提供している事業者が、バニラアイスクリームに特化して提供する場合、アイスクリームの市場の一部のみを対象とするものと考えられ、市場の新規性要件を満たさないと考えられる。
新分野展開の要件3.売上高10%要件
新分野展開の要件3の売上高10%要件を満たすためには、3~5年間の事業計画期間終了後、新製品等の売上高が総売上高の10%以上を占めることが見込まれるものである必要があります。
卸売業・小売業の場合は新商品、サービス業・飲食店の場合は新サービスということになります。
※10%は申請するための最低条件です。新たな製品の売上高がより大きな割合となる計画を策定することで、審査においてより高い評価を受けることができる場合があります。
新分野展開の例
製造業の新分野展開の例
事業再構築指針の手引きでは、製造業の新分野展開の例として、「航空機用部品を製造していた製造業者が、業界全体が業績不振で厳しい環境下の中、新たに医療機器部品の製造に着手し、5年間の事業計画期間終了時で、医療機器部品の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定している場合。」が挙げられています。
要件1.製品等の新規性要件 | 要件①過去に製造等した実績がないこと | 新たに製造する医療機器部品が、過去に製造した実績のない部品であれば、要件を満たす。 |
要件②主要な設備等を変更すること | 医療機器部品を製造するため、航空機専用の生産設備とは異なる専用の生産設備が新たに必要であり、当該設備を導入する場合には、要件を満たす。 | |
要件③定量的に性能又は効能が異なること(計測できる場合のみ) | 新たに製造する医療機器部品と従来製造していた航空機用部品が異なる部品であれば、定量的に性能又は効能(強度や軽さ等)を比較することが難しいことを示すことで要件を満たす。ただし、両部品が類似の製品であって、その性能(強度や軽さ等)を比較することが可能な場合には、差異を定量的に説明することで、要件を満たす。 | |
要件2.市場の新規性要件 | 既存製品等と新製品等の代替性が低いこと | 医療機器部品と航空機用部品では、その用途が全く異なり、医療機器部品を新たに製造・販売することによって、航空機用部品の需要が代替され、売上が減少することは見込まれないと考えられることを説明することで、要件を満たす。 |
要件3.売上高10%要件 | 3~5年間の事業計画期間終了後、新たな製品等の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定すること | 5年間の事業計画期間終了後、医療機器部品の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定することで要件を満たす。 |
不動産業の新分野展開の例
事業再構築指針の手引きでは、不動産業の新分野展開の例として、「都心部の駅前にビジネス客向けのウィークリーマンションを営んでいたが、テレワーク需要の増加を踏まえて、客室の一部をテレワークスペースや小会議室に改装するとともにオフィス機器を導入し、3年間の事業計画期間終了時点で、当該レンタルオフィス業の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定している場合。」が挙げられています。
要件1.製品等の新規性要件 | 要件①過去に製造等した実績がないこと | 過去にレンタルオフィス業を営んだことがなければ、要件を満たす。 |
要件②主要な設備等を変更すること | レンタルオフィス業を始めるため、新たに客室の改装やオフィス機器の導入が必要であり、その費用がかかる場合には、要件を満たす。 | |
要件③定量的に性能又は効能が異なること(計測できる場合のみ) | ウィークリーマンションとレンタルオフィスでは、提供するサービスの種類が異なり、定量的に性能又は効能を比較することが難しいことを示すことで要件を満たす。 | |
要件2.市場の新規性要件 | 既存製品等と新製品等の代替性が低いこと | ウィークリーマンションとレンタルオフィスは、関係性が薄いサービスであり、新たにレンタルオフィスを始めたことで、ウィークリーマンションの需要が代替され、売上高が減少するといった影響が見込まれないと考えられることを説明することで、要件を満たす。 |
要件3.売上高10%要件 | 3~5年間の事業計画期間終了後、新たな製品等の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定すること | 3年間の事業計画期間終了後、レンタルオフィス業の売上高が総売上高の10%以上となる計画を策定することで要件を満たす。 |
これらの要件のすべてを満たすことによって新分野展開に該当し、事業再構築補助金を受給することができます。
新分野展開の活用イメージ集の例
新分野展開の活用イメージ集が公表されているため、大きなイメージをつかむには参考になります。
画像
新分野展開(PDF)
ここでは新分野展開をアップしています。
事業再構築補助金の他の類型
事業再構築には5つの類型があり、この5つの類型のいずれかに該当すれば事業再構築をしたことになり、事業再構築補助金を受給することができます。
1.新分野展開
2.事業転換
3.業種転換
4.業態転換
5.事業再編
このコラムでは、新分野展開について記載しましたが、その他の4つの類型(事業転換、業種転換、業態転換、事業再編)については、それぞれ下記のコラムをご参照下さい。
コラム「事業再構築補助金の事業転換の3要件とあてはめ方」
コラム「事業再構築補助金の業種転換の3要件とあてはめ方」
コラム「事業再構築補助金の業態転換の3要件とあてはめ方」
コラム「事業再編を行った場合の事業再構築の該当性の判断方法」
事業再構築補助金の申請サポート・申請代行
税理士法人MFMは、経営革新等支援機関(認定支援機関)としてこれまで多くの申請書作成のサポート・申請代行を行い、中小企業・中堅企業の経営を支援してきました。
これまで認定を受けてきた多くの申請書作成サポートの実績と経験により、採択されやすいポイントを押さえた事業再構築補助金の申請書の作成を支援いたします。
認定支援機関の名称 | 税理士法人MFM |
ID番号 | 105327007302 |
認定日 | 2018年12月21日 |
具体的相談内容等 | 創業等支援、事業計画作成支援、経営改善、事業承継、M&A、事業再生、情報化戦略、販売開拓・マーケティング、マッチング、人材育成、人事・労務、海外展開等、BCP(事業継続計画)作成支援 |
弊社は認定支援機関であるとともに税理士法人であるため、税務的なサポートも万全です。
※税理士や税理士法人でない認定支援機関が税務相談を反復継続して行うことは税理士法違反となります。
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