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貸倒引当金の基本的な説明とその仕訳については、コラム「貸倒引当金の繰入と戻入の仕訳」で見てきました。
次は、法定繰入率などを使用した貸倒引当金の具体的な計算方法について見ていきます。

一括評価金銭債権に対する貸倒引当金の計算方法

簡単に説明すると、一括評価金銭債権とは貸倒れの懸念が低い通常の債権のことです。
貸倒れの懸念が低い通常の債権については、一括して貸倒引当金を計算・計上します。
まずは、一括評価金銭債権に対する貸倒引当金の計算方法について見ていきます。

一括評価金銭債権となる金銭債権

次のような金銭債権は、貸倒引当金の計上の対象となる一括評価金銭債権となります(法人税法52条、法人税基本通達11-2-16他)

□売掛金、貸付金
□未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等又は貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの
□他人のために立替払いした場合の立替金
□未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの
□保証債務を履行した場合の求償権
□売掛金、貸付金などの債権について取得した受取手形
□売掛金、貸付金などの債権について取得した先日付小切手のうち法人が一括評価金銭債権に含めたもの
□延払基準を適用している場合の割賦未収金等
□売買があったものとされる法人税法上のリース取引のリース料のうち、支払期日の到来していないもの
□工事進行基準を適用している場合のその工事の目的物を引き渡す前の工事未収金

一括評価金銭債権とならない金銭債権

次のような金銭債権は、貸倒引当金の計上の対象となる一括評価金銭債権となりません(法人税基本通達11-2-18他)

□預貯金及びその未収利子、公社債の未収利子、未収配当その他これらに類する債権
□保証金、敷金、預け金その他これらに類する債権
□手付金、前渡金等のように資産の取得の代価又は費用の支出に充てるものとして支出した金額
□前払給料、概算払旅費、前渡交際費等のように将来精算される費用の前払として、一時的に仮払金、立替金等として経理されている金額
□金融機関における他店為替貸借の決済取引に伴う未決済為替貸勘定の金額
□証券会社又は証券金融会社に対し、借株の担保として差し入れた信用取引に係る株式の売却代金に相当する金額
□雇用保険法、雇用対策法、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定に基づき交付を受ける給付金等の未収金
□仕入割戻しの未収金
□保険会社における代理店貸勘定の金額
□法人税法第61条の5第1項(デリバティブ取引に係る利益相当額の益金算入等)に規定する未決済デリバティブ取引に係る差金勘定等の金額
□法人がいわゆる特定目的会社(SPC)を用いて売掛債権等の証券化を行った場合において、その特定目的会社の発行する証券等のうちその法人が保有することとなったもの
□工事進行基準を適用している場合のその工事の目的物を引き渡す前の工事未収金(平成20年3月31日までに開始する事業年度)

法定繰入率を使用する場合の計算方法

貸倒引当金繰入額=期末の一括評価金銭債権の帳簿価額×法定繰入率

一括評価金銭債権に対する貸倒引当金を法定繰入率を使用して計算する場合、その名の通り「法律によって定められた繰入率」を用いることになります。
法定繰入率は、次のような業種区分によって異なる定めがされています(法人税法施行令33の7、39の86)

事業区分割合
卸売及び小売業(飲食店業等を含み、割賦販売小売業を除く)10/1,000
製造業(電気業等を含む)8/1,000
金融及び保険業3/1,000
割賦販売小売業等13/1,000
その他の事業6/1,000

法定繰入率における事業区分の判定は、おおむね日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定することとされています(法令解釈通達57の9-3)

例えば、日本標準産業分類の大分類D「建設業」の中の中分類06「総合工事業」の中に「建築工事業」があります。
この大分類D「建設業」は、「卸売業及び小売業」、「製造業」、「金融及び保険業」、「割賦販売小売業等」とは別の分類にあります。
そのため、建設業や建築業は、その他の事業となり法定繰入率は6/1,000となります。
事業区分の判定に迷ったときは、まずはこのように日本標準産業分類への当てはめを行うことにより判定します。

貸倒実績率を使用する場合の計算方法

貸倒引当金繰入額=期末の一括評価金銭債権の帳簿価額×貸倒実績率

一括評価金銭債権に対する貸倒引当金を貸倒実績率を使用して計算する場合、その名の通り「過去の貸倒れの実績率」を用いることになります。
具体的には、貸倒実績率は以下のように過去3年間の貸倒れの実績を用いて算定します。

貸倒実績率=(A×B)÷C

A:その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の売掛債権等の貸倒損失の額
+その各事業年度の個別評価分の貸倒引当金繰入額の損金算入額
-その各事業年度の個別評価分の貸倒引当金戻入額の益金算入額

B:12÷左の各事業年度の月数(※)の合計額

C:その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度終了の時における一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額÷その各事業年度の数

※「月数」は暦に従って計算し、1か月に満たない端数が生じたときは、1か月とします。
※貸倒実績率は小数点以下4位未満を切り上げて計算します。

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個別評価金銭債権に対する貸倒引当金の計算方法

簡単に説明すると、個別評価金銭債権とは貸倒れの懸念が高い債権のことです。
貸倒れの懸念が高い債権については、その債権ごとに個別に評価して貸倒引当金を計算・計上します。
その評価の際にいくつかの区分に分けられ、それぞれの区分ごとに繰入限度額が定められています。

個別評価金銭債権の区分と個別貸倒引当金の繰入限度額
(法人税法施行令第96条第1項)
第1号法第52条第1項の内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権(同項に規定する個別評価金銭債権をいい、当該内国法人との間に連結完全支配関係がある連結法人に対して有する金銭債権を除く。以下この項において同じ。)につき、当該個別評価金銭債権に係る債務者について生じた次に掲げる事由に基づいてその弁済を猶予され、又は賦払により弁済される場合
当該個別評価金銭債権の額の当該事由が生じた日の属する事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までに弁済されることとなっている金額以外の金額(担保権の実行その他によりその取立て又は弁済(以下この項において「取立て等」という。)の見込みがあると認められる部分の金額を除く 。)
会社更生法または金融機関等の更正手続の特例等に関する法律の規定による更正計画認可の決定
民事再生法の規定による再生計画認可の決定
会社法の規定による特別精算に係る協定の認可の決定
イからハまでに掲げる事由に準ずるものとして財務省令で定める事由
(法人税法施行規則第25条の2)
1号:債権者集会の協議決定で合理的基準により債務者の負債整理を定めているもの
2号:行政機関、金融機関その他第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容が前号に準ずるもの
第2号当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき、債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事業の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由が生じていることにより、当該個別金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められる場合(前号に掲げる場合を除く。)
当該一部の金額に相当する金額
第3号当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき、次に掲げる事由が生じている場合(第1号に掲げる場合及び前号に定める金額を法第52条第1号に規定する個別貸倒引当金繰入限度額として同項の規定の適用を受けた場合を除く。)
当該一部の金額に相当する金額
当該個別金銭債権の額(当該個別評価金銭債権額のうち、当該債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)の100の50に相当する金額
会社更生法又は金融機関等の更正手続の特例等に関する法律の規定による更正手続開始の申し立て
民事再生法の規定による再生手続開始の申立て
破産法の規定による破産手続開始の申し立て
会社法の規定による特別精算開始の申し立て
イから二までに掲げる事由に準ずるものとして財務省令で定める事由
(法人税法施行規則 第25条の3)
手形交換所(手形交換所のない地域にあっては、その地域において手形の交換業務を行う銀行団を含む。)による取引停止処分とする。
第4号当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する外国の政府、中央銀行又は地方公共団体に対する個別評価金銭債権につき、これらの者の長期にわたる債務の履行遅滞によりその経済的な価値が著しく減少し、かつ、その弁済を受けることが著しく困難であると認められる事由が生じている場合
当該個別金銭債権の額(当該個別評価金銭債権額のうち、これらの者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額及び保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)の100の50に相当する金額

M&A(Mergers and Acquisitions)の財務デューデリジェンス(財務DD)においては、金銭債権の回収可能性を検討する必要があり、個別評価金銭債権に該当するような債権については、貸倒引当金が適切に計上されているか(債権が適切に評価されているか)というのが重要なポイントになります。
また、貸倒損失や貸倒引当金繰入額の損益計算書における計上区分を検討することにより、正しい営業利益や経常利益を把握し本来の収益性を把握することもM&Aの財務DDにおいて大切です。
コラム「デューデリジェンスとは」
コラム「財務デューデリジェンスと事前依頼資料」

大法人における貸倒引当金

今まで貸倒引当金の計算方法を見てきましたが、それは中小法人を対象としたものです。
なぜ中小法人を先に見たかと言うと、大法人においては平成23年税制改正により貸倒引当金が段階的に廃止され、現在においては計上することができなくっているためです。
(説明の便宜上、「中小法人」「大法人」と言っていますが、実際は少し異なる部分があります)

具体的に、貸倒引当金を計上することができる法人とは、次のような法人です(法人税法52条)

□資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の普通法人(資本金が5億円以上の法人等の100%子法人等を除きます)
□資本又は出資を有しない普通法人
□公益法人等又は協同組合等
□人格のない社団等
□銀行、保険会社その他これらに準ずる法人
□金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人

そのため、資本金が1億円を超えるような大会社では貸倒引当金を計上することができなくなっています。

個人事業主における貸倒引当金の計算方法

今まで法人税における貸倒引当金の計算方法を見てきましたが、所得税(個人事業主)における計算方法は異なる部分があります。
個別評価金銭債権に対する個別貸倒引当金の計算は変わりませんが、一括評価金銭債権に対する一括貸倒引当金の計算が大きく異なります。
法人の一括貸倒引当金の計算は、法定繰入率を使うのか貸倒実績率を使うのか、控除負債利子の計算で原則法を使うのか簡便法を使うのか、といった選択をする必要があり複雑でした。
これに対し、所得税(個人事業主)の場合はシンプルで、法定繰入率しかありませんし貸倒実績率も2種類しかありません。

□金融業以外の事業 1,000分の55
□金融業 1,000分の33

このようなシンプルな計算式になっているため、個人事業主の医院・歯科クリニックにおける社会保険・国民健康保険の診療報酬債権の未収入金は貸倒れが発生することはほとんどありませんが、貸倒引当金を計上することが可能となっています。
先ほど見たように、法人税の場合の法定繰入率は(その他の事業の場合)1,000分の6となっていますが、所得税(個人事業主)の場合の法定繰入率は1,000分の55などになっており、法人と比べてとても有利になっています。
コラム「【医院・歯科】クリニック開業時の融資に成功する創業計画書の書き方とポイント」
コラム「医院・歯科クリニックのドクターから見たデューデリジェンスの注意点」

財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンス

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