特定事業者リストとは、不適切な譲り受け側事業者の情報を共有する仕組みです。このコラムでは、M&Aの売手が悪質な買い手から、会社、代表者自身と家族、従業員、取引先を守るために知っておくべき制度である特定事業者リストについて説明しています。

特定事業者リストによる不適切な買手の情報共有の仕組み

運営者

一般社団法人M&A支援機関協会

共有された情報を利用することができる者

1.特定事業者リスト利用者

一般社団法人M&A支援機関協会のホームページに「特定事業者リスト利用者一覧」が掲載されています。

2.全国の事業承継・引継ぎ支援センター

「情報共有の仕組み」において、「情報の共有範囲には、公的相談窓口である全国の「事業承継・引継ぎ支援センター」も含める必要がある」とされています。

※M&Aの売手が、悪質な買手リスト(特定事業者リスト)を入手することはできません。

不適切な買手の認定事由

「規約」では5つの事由が定められ、これらの事由に該当すれば不適切な買手と認定され、特定事業者リストに掲載されることになるようです。ここでは簡潔に記載していますが、詳細は「規約」をご参照下さい。

不適切な買手の認定事由1

M&A取引の実行日から60営業日以内に経営者保証が解除されない場合。

不適切な買手の認定事由2

譲り受け側が、M&A取引の実行日から10営業日以内に金融機関等に経営者保証解除の相談を行わない場合。

不適切な買手の認定事由3

経営者保証を解除できないことが確定した日から20営業日以内に譲り受け側が借換や自らの負担による当該保証債務等の解除を行わない場合。

不適切な買手の認定事由4

M&A対価の分割払いや退職慰労金の後払いをする場合で、支払期日を経過しても支払いがなされない場合。

不適切な買手の認定事由5

その他、明らかな資金不足によるM&Aの実施、最終契約において合意された未決済事項の不当な履行拒否、解除合意等の不当拒否等の保証債務等の未解除に至る可能性の存在、M&Aを利用した譲り渡し側情報の不当な抜き取り及び不当使用、M&A後に譲り渡し側から資金を抜き取る一方で必要な運転資金を入金しない等の濫用的M&A事由にあたる場合。

特定事業者リストに掲載される情報

不適切な買手と認定された場合、少なくとも以下の情報が特定事業者リストに掲載されるようです。
①社名
②法人番号
③代表者名
④役員名
⑤登録日
⑥登録事由
⑦備考(現在の状況、原因解消措置等)

特定事業者リストに掲載される期間

登録開始日から最低でも10年間継続してリストに掲載されます。

特定事業者リストに掲載されている買手の紹介

重要なところですので、誤解の無いように原文をそのまま記載しています。

「規約」の規定

仲介・FA契約の締結前における契約重要事項説明の対象とする

「情報共有の仕組み」の規定

情報の共有がなされた譲り受け側との取引停止を参加者に強制する場合には、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)上、違法となる可能性があるため、共有される情報に基づき、参加者が自らの責任で取引の可否を判断することとする必要がある。

つまり、「特定事業者リストに掲載されている不適切な買手であっても仲介会社から紹介されることもありうる。重要事項説明書の確認が重要。」ということになります。

結局、悪質な買手に出くわしてしまうリスクはあるのかないのか

特定事業者リストの情報共有により、悪質な買手を一定レベルでM&A市場から排除できるようになりました。しかしながら、以下のケースでは悪質な買手に出くわしてしまうおそれがあり、そのリスクは軽視できないのではないかと感じています。

仲介会社が特定事業者リスト利用者ではないケース

仲介会社は特定事業者リストの情報を持っておらず、悪質な買手を紹介されてしまうおそれがあります。

悪質な買手が初犯のケース

初犯であれば特定事業者リストに掲載されていないため、悪質な買手を紹介されてしまうおそれがあります。また、特定事業者リストの運営者に対し悪質な買手の情報が寄せられていたとしても、それが真実であるかどうかの情報収集、不適切な買手の認定事由に該当するかどうかの判断にはある程度の時間を要する場合もあると考えられ、その間は特定事業者リストに掲載されないこととなります。

悪質な買手が、別会社を設立し別の代表者をたてたケース

特定事業者リストの情報に掲載されていない会社・代表者であれば、悪質な買手と判別することができず、仲介会社から紹介されてしまうおそれがあります。

重要事項説明を受けずに紹介されてしまうケース

あってはならなないことですが、特定事業者リストに掲載されている悪質な買手であるにも関わらず、重要事項説明を受けず(重要事項説明書に記載がなく)紹介されてしまうリスクもゼロではありません。ルールが確立されている不動産業界でも時として重要事項説明義務違反が起こりますので、M&A業界でも同じことが起こるおそれがあります。

コラム「ルシアン社のような買手に買収されないようにする5つの調査方法

特定事業者リストによる不適切な買手の情報共有の経緯

□2024年5月
2024年5月3日の東京新聞の記事、2024年5月9日の朝日新聞の記事などにより、株式会社ルシアンホールディングス(東京都千代田区)の事件が明るみになり社会問題化。

□2024年8月
中小企業庁が、不適切な譲り受け側の排除に向けた取組みを盛り込んだ中小M&A ガイドライン(第3版)を策定、公表。

□2024年10月
一般社団法人M&A仲介協会(現在の一般社団法人M&A支援機関協会)が、「特定事業者の情報共有の仕組みに関する規約」を策定し、「特定事業者リスト」の運用を開始。

□2025年2月
中小企業庁が、「不適切な譲り受け側に係る情報共有の仕組みについて(本コラムでは「情報共有の仕組み」という。)を公表。

□2025年4月
一般社団法人M&A支援機関協会が、「特定事業者の情報共有に関する規約(本コラムでは「規約」という。)を策定し、「特定事業者リスト」の運用を厳格化。

企業調査

M&Aはスケジュールがタイトになることが多く、企業調査も迅速に行う必要があるケースも多いと思います。税理士法人MFMでは最短1日で買手の企業調査を実施しております(現地調査が必要な場合は少し時間を要します)。不適切な買手と基本合意書を締結してしまった後であっても、企業調査の証拠を積み上げることでM&Aを白紙にできる可能性もあり、遅すぎることはありませんのでお早めにご相談ください。
企業調査の料金は1社10万円(税別)です。
※東京や大阪のみならず全国対応していますが、現地調査が必要な場合は別途費用がかかります。
※調査の結果、明白な調査結果が出ないことがあります。ただしそのような場合であっても、違和感を感じる点や通常ではあり得ない点などの情報のご提供はさせて頂いています。

税理士法人MFM
公認会計士・税理士 松浦孝安