税理士法人MFM(四大監査法人出身の公認会計士在籍)
M&Aにおいてデューデリジェンスはなぜ必要なのか
デューデリジェンスは、企業買収(M&A)(Mergers and Acquisitions)の前に行う買収対象企業の調査のことで、英語では「Due Diligence」と書きます。
「当然の・正当な」という意味を持つ「Due」と、「努力・精励」という意味を持つ「Diligence」を組み合わせた言葉で、直訳すると「当然の努力」を意味します。
本当にデューデリジェンスは当然に行う必要性があるのでしょうか。
その理由は、「レモン」(?)や「経営者の責任」と密接な関係があります。
情報の非対称性(レモン市場)
どのような商品の売買でも、「売り手」と「買い手」は対立関係にあります。
「売り手」はできるだけ高く売りたいため、都合の悪い情報は「買い手」に与えたくないと思うどころか、場合によっては隠そうとします。
逆に「買い手」は適正な(か、できるだけ安い)価額で買いたいのですが、「売り手」ほどの十分な情報を得ることはできません。
ここに大きな情報の格差が存在します。
この情報の格差の最も典型的な例は、中古車の販売です。
「売り手」である中古車ディーラーは、できるだけ高く売りたいのでその車が「事故車」であったり「エンジントラブル」を抱えているといったような自分に不利になるような情報は「買い手」に与えたくありません。
逆に「買い手」としては、そのような重要な情報が欲しいと思っており試乗もしますが、10分程度試乗したところでその車が「事故車」であるのかや「エンジントラブル」を抱えているのかどうかはほとんどのケースで分かりません。
中古車の購入後、数日~数か月間乗ってみてようやくその品質がしっかり分かります。
購入前においては、中古車ディーラーからの説明に依存して判断するしかありません。
(中古車ディーラーも情報の格差により品質の悪い車を買ってしまったのかもしれません。)
このように、「売り手」のみが商品の品質に関して豊富な情報を持っており、「買い手」にはその情報が共有されておらず不均衡で優劣のある情報構造になっています。
このことを経済学の用語で「情報の非対称性」といいます。
「情報の非対称性」は、別名「レモン市場」とも呼ばれています。
レモンはあのすっぱい果物のことですが、アメリカのスラング(俗語)で質の悪い中古車を意味します。
厚い皮に覆われていて、外からその品質を判断することが難しいことに由来します。
レモン市場では売り手は情報が非対称であることを利用して品質の悪い欠陥品を流通させようとします。
買い手は品質の悪い欠陥品を掴まされた経験や、そのようなものがあるとの周りからの情報によって、レモン市場で流通している商品に品質が期待できないことを習得します。
そのため、まじめに品質のよいものを適正な価格で販売しようとしている売り手は、その努力が報われずに市場から撤退してしまうおそれがあります。
このような負の連鎖から、市場には(品質の悪い)レモンばかりが出回ってしまうようになります。
M&A市場とレモン市場
残念ながらM&A市場においては、どれだけ有名な仲介会社からの紹介案件であっても(品質の悪い)レモンを掴まされてしまうおそれがあります。
本当に良い物件はそれほど多くはなく、また良い物件はどうしても価額が高くなってしまうので、ついついレモンを掴んでしまうのです。
不動産もそうですが、一般市場に出回る前の掘り出し物件があれば一番良いのですが、普通はそのような物件の情報を入手することは困難であり、一般のM&A市場の中で慎重に探すしかありません。
デューデリジェンスと経営者の責任
経営者には善管注意義務という責任が課せられています。
善管注意義務とは、「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」(会社法355条)という、経営者に課せられた責任です。
そしてその義務に違反してしまうと、「その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(会社法423条)ことになってしまいます。
完全な同族会社で「株主=経営者」となっており、所有と経営が一致している会社であれば、株主からの責任追及はないでしょう。
しかし、同族以外の株主の存在により「株主≠経営者」となっており、所有と経営が分離している会社であれば、善管注意義務に違反して会社ひいては株主に損害を与えてしまった場合、株主から責任を追及する訴えを起こされるおそれがあります。
デューデリジェンスを実施していない又は不十分であったことにより、M&Aの買手が予期せぬ損害を被った例は数えきれないほどあります。
そのようなことにならないように、M&Aを行う際にはしっかりとデューデリジェンスを行う必要があります。
すべて専門家が行わなければならないという必要はありませんが、デューデリジェンスは買収対象企業を財務・法務・税務・人事労務・IT・ビジネス・不動産・環境といった様々な側面から評価する必要があるため、M&Aの各分野の専門家の知識・経験が必要になります。
社内の人間だけでも可能かもしれませんが、善管注意義務という経営者の責任をより高いレベルで果たすために専門家にデューデリジェンスを依頼することになります。
専門家への依頼の内容も高度な知識や経験を要するため、その知識や経験のレベルにもよりますが、デューデリジェンス費用も高額になってしまいます。
かといって、コストを重視してまったくデューデリジェンスを実施しなかったり知識やM&Aの経験に乏しい専門家に依頼すると、後々もっと大変なことになってしまいます。
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公認会計士・税理士 松浦孝安