デューデリジェンス費用の会計処理-個別財務諸表の場合

個別財務諸表においては、子会社株式の取得原価は、金融商品会計基準及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」に従って算定することとなります。そのため、M&Aのデューデリジェンス費用は、取得した金融資産の取得価額に含められます。ただし、経常的に発生する費用で、個々の金融資産との対応関係が明確でない付随費用は、取得価額に含めないことができます(金融商品実務指針56)。

つまり、原則として、株式の取得の付随費用として子会社株式の取得価額に含めることになります。ただし、M&Aが成立しなかったときのように金融資産との対応関係がない場合などは、発生時費用処理することになると考えられます。

デューデリジェンス費用の会計処理-連結財務諸表の場合

現在の会計処理(新企業結合会計基準の取扱い)

デューデリジェンス費用の会計処理は、連結財務諸表においては、企業結合会計基準により行うことになります。この企業結合会計基準は、国際的な会計基準に基づく財務諸表との比較可能性を改善する観点や取得関連費用のどこまでを取得原価の範囲とするかという実務上の問題点を解消する観点から平成25年9月13日に改正されました。この改正により現在では、M&Aのデューデリジェンス費用は発生した事業年度の費用として処理することとされています(企業結合会計基準94)。

以前の会計処理(旧企業結合会計基準の取扱い)

平成20年12月26日改正の旧企業結合会計基準では、取得はあくまで等価交換取引であるとの考え方を重視し、取得企業が等価交換の判断要素として考慮した支出額に限って取得原価に含めることとしてため、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は取得原価に含め、それ以外の支出額は、発生時の事業年度の費用として処理することとされていました。現在では会計処理が変更されていますので注意する必要があります。

デューデリジェンス費用の税務処理-株式取得の場合

現在の国税不服審判所の考え方

法人税法においては、購入した有価証券の取得価額は、その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)となります(法人税法施行令119条1項1号)。M&Aのデューデリジェンス費用は、この「有価証券の購入のために要した費用」に該当するか否かを判断する必要があります。

令和6年1月24日国税不服審判所高松支部採決では、以下のような考え方が示されました。
・複数の有価証券の候補の中からいずれかを決定する→損金処理
・特定の有価証券を取得する前提で行う
  M&Aが不成立→損金処理
  M&Aが成立→取得価額

以下、令和6年1月24日国税不服審判所高松支部裁決 税務通信3828号より引用

例えば、取得しようとする有価証券の候補が複数ある場合において、いずれの有価証券を取得すべきかを決定するために行うDDに係る費用は、通常、取得を目的とする株式が特定されていないことから、実際に取得した有価証券の取得との関連性は希薄であるといえる。
しかし、少なくとも、特定の有価証券を取得する前提で行うDDに係る費用は、その特定の有価証券の取得を断念した場合を除き、当該有価証券の取得を目的としてその取得に関連して支出する費用というべきである。

以前の国税不服審判所の考え方

平成22年2月8日国税不服審判所福岡支部裁決では、以下のような考え方が示されていました。
・取締役会等による買収意思決定前→損金処理
・取締役会等による買収意思決定後→取得価額

以下、平成22年2月8日国税不服審判所福岡支部裁決 TAINS FO-2-500より抜粋

「購入した有価証券の取得価額は、法人税法施行令第119条第1項第1号がその購入の代価にその有価証券の購入のために要した費用の額を加算した金額とする旨規定しているところ、どの有価証券を購入するか特定されていない時点において、いずれの有価証券を購入すべきであるか決定するために行う調査等に係る支出は、この有価証券の購入のために要した費用には当たらないものの、特定の有価証券を購入する意図の下で有価証券の購入に関連して支出される費用は、有価証券の購入のために要した費用として当該有価証券の取得価額に当たるものと解される。
本件財務調査費用は、本件財務調査が本件株式の買収についての意思決定の参考とするために行われたものと認められることからすれば、特定の有価証券を購入することを決定した後に当該有価証券の購入に関連して支出される費用に該当することになるから、有価証券の購入に要した費用として、本件株式の取得価額に算入されることとなる。」

デューデリジェンス費用の税務処理-吸収合併の場合

平成30年12月26日に国税庁が公表している質疑応答事例が更新され、「合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い」という新たな事例が公表されました。この質疑応答事例では、吸収合併を計画している場合に、「事業内容や権利義務関係の把握、企業価値の評価、合併の実行に必要な手続の把握等」を内容とするM&Aのデューデリジェンス費用は、合併により移転を受ける減価償却資産の取得価額に含めるなど資産として計上せずに、一時の損金として処理することになります。

会計処理と税務処理のまとめ

M&Aのデューデリジェンス費用の処理方法は、
・会計処理-個別財務諸表の場合
・会計処理-連結財務諸表の場合
・税務処理-株式取得の場合
・税務処理-吸収合併の場合
でそれぞれ処理が異なっているため注意が必要です。

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公認会計士・税理士 松浦孝安