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医院・歯科クリニックが順調に大きくなってくれば、MS法人を設立するか医療法人化するかで悩まれる先生も多いと思います。医療法人化したとしてもMS法人を設立するメリットはあるため、医療法人化とMS法人の設立の両方行うケースもよくあります。このコラムでは、MS法人を設立した場合の節税メリットとデメリットをついて解説しています。

MS法人とは

MS法人とはメディカル・サービス法人の頭文字をつないだ略語で、医療に付随する業務を行う法人です。医療行為は医療機関でしか行うことができないため、MS法人は医療事務や物品販売業務といった医療行為以外の業務を行うことになります。MS法人の定義は医療法や会社法で明確な定めはなく、株式会社や合同会社といった通常の営利法人でメディカル・サービスを行っている法人を一般的にMS法人と呼んでいます。

MS法人のメリット

MS法人を設立するメリットはいくつもありますが、最も大きなメリットは次の4つです。
①所得の分散(節税)ができる
②営利事業を営むことができる
③相続対策になる
④資産を守ることができる

MS法人のメリット①所得の分散(節税)ができる

今まで医療機関だけに集約されていた所得が医療機関とMS法人に分かれると、節税になります。例えば、個人の医院・歯科クリニックで収入が多ければ所得税は累進課税であるため最高で45%の税率になりますが、所得を分散することができれば33%くらいにまで所得税率を抑えることができるかもしれません。また医療法人であっても、各法人で所得が800万円までは法人税率が軽減されていたり各法人で少額減価償却資産や交際費の限度額を使うことができることから、節税になります。

個人医院と医療法人で内容が少し異なる部分がありますが、MS法人の設立による節税メリットは以下のとおりです。
・累進課税による所得税率を抑えられる
・法人税の軽減税率を使える
・少額減価償却資産の特例を使える
・各法人で交際費の限度額を使える
・経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に加入することができる
・役員社宅を活用することができる
・給与所得控除を使うことができる
・ものづくり補助金や事業再構築補助金の受給対象企業になる
・法人設立後1~2年間は消費税が免税となる期間がある
・赤字を長く繰り越すことができる(繰越欠損金は10年間繰越可)

ただし、ここで最も気を付けなければならないのは、医療法人とMS法人の役職員の兼務です。平成24年3月30日に厚生労働省から「医療法人の役員と営利法人の役職員の兼務について」(医政総発0330第4号)(医政指発0330第4号)という文書が出ていますので、これに引っかからないようにしなければなりません。医療機関は非営利性が求められている部分があり、原則として医療法人の役員がMS法人の役職員を兼務することが禁止されています。また、個人の医院・歯科クリニックでも院長先生はMS法人の代表者を兼務しない方がよいと言われています。

医師である院長先生や理事長は医療機関で所得を稼ぐことができるため、一般的には親族がMS法人の役員に就任し役員としての職務を果たすことにより所得を分散することになります。

MS法人のメリット②営利事業を営むことができる

繰り返しになりますが医療機関は非営利性が求められている部分があり、特に医療法人に対しては厚生労働省「医療法人運営管理指導要綱」などにより株式投資や不動産投資といった営利事業については厳しく制限されています。
・医療事業の経営上必要な運用財産は、適正に管理され、処分がみだりに行われていないこと。
・現金は、銀行、信託会社に預け入れ若しくは信託 し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとすること(売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でないこと)。
・現在、使用していない土地・建物等については、長期的な観点から医療法人の業務の用に使用する可能性のない資産は、例えば売却するなど、適正に管理又は整理することを原則とする。

この点、MS法人は株式会社や合同会社といった営利法人ですのでこれらの営利事業について特段の制限はありません。また、医療機関であればコンタクトレンズやサプリメントの販売は患者のために療養の向上を目的として行われるものである場合に限り可能とされていますが、MS法人であればこのような制約はありません。
参考:「医療機関におけるコンタクトレンズ等の医療機器やサプリメント等の食品の販売について」(平成26年8月28日付け厚生労働省医政局総務課事務連絡)

MS法人のメリット③相続対策になる

出資持分の定めのある医療法人(持分ありの医療法人)の場合、医師である理事長が医療法人の持分の多くを持っているケースが多いと思います。医療法人だけに所得が集約されていると医療法人の株価が高くなり、もともと資産を多く持たれている理事長の相続財産が増えるため相続税額が高くなってしまいます。MS法人のメリット①「所得の分散(節税)ができる」に通じるところがありますが、適切な所得の分散ができていると相続対策になります。

MS法人のメリット④資産を守ることができる

医療機関の経営が順調にいっているときはいいのですが、時には経営が苦しくなり立ちいかなくなってしまう場合もあります。MS法人で不動産を所有していれば、医療機関を廃業又はM&Aで売却するようになったとしても、MS法人で所有している不動産だけは守ることができます。また、良くないことなのですが稀に医療法人の乗っ取り事件を耳にしますが、そのような場合でもMS法人所有の資産は守られるため、万が一のリスクヘッジにもなります。

個人の医院・歯科クリニックの場合、親族が青色事業専従者になることにより所得分散するとともに相続対策も可能です。ただし青色事業専従者は、文字通り「専従」している必要があるとともに、労務の対価として相当であると認められる金額であることが求められています。
参考:タックスアンサー「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
この点、MS法人の役員であれば上記のような厳しめの制約を受けることなく、所得分散すると同時に相続対策をすることが可能です。

MS法人のデメリット

逆にMS法人の設立によるデメリットもいくつかあり、最も大きなデメリットは次の4つです。
①事務負担とコストが増える
②税務上のリスクが高くなる
③トップダウン経営をしにくくなる
③経営がバラバラになってしまうおそれがある

MS法人のデメリット①事務負担とコストが増える

MS法人を設立するのであれば、組織体制、規程、人員、契約、会計、申告など法人運営に必要な経営資源のすべてを医療機関とはしっかりと区分する必要があります。そのためには先生の事務負担も増えますし、法人であれば最低限必要な法人住民税の均等割や顧問税理士への申告料も必要になります。

医療機関の規模が大きくまた所得分散できる親族がいるのであれば、上記のMS法人のメリットの恩恵の方が大きいでしょう。一方で、医療機関の規模がそれ程大きくなかったり所得分散できる親族が少ないのであれば、メリットよりも事務負担とコストが増えてしまうというデメリットの方が大きくなるかもしれません。社会保険診療報酬が5,000万円以下で概算経費(措置法26条)を適用する場合や、奥様が専従者としてしっかりと働かれているような場合であれば、青色事業専従者給与として所得分散する方がずっと簡単です。

MS法人のデメリット②税務上のリスクが高くなる

MS法人のメリットに所得分散や相続対策がありますが、そのメリットを求めるばかり医療法人とMS法人との間で適正ではない取引価格になってしまうおそれがあります。また、契約当初は適正価格だったとしても時の経過や経営環境の変化とともに徐々に適正価格から乖離してしまうこともあります。もしMS法人に名ばかりの役員がおり、その役員に役員報酬を支給しているようなことがあれば当然に税務上問題になります。

MS法人のデメリット③トップダウン経営をしにくくなる

医療事務業務、総務・経理業務などをMS法人が行っている場合、医療法人がそれらの業務で改善が必要だと判断したとしても直接指示を出しにくくなることがあります。なぜなら、先ほど述べた医療法人の役員とMS法人の役職員の兼務禁止がここでは弊害となるからです。医療法人は一旦それらの業務を委託しているMS法人に業務改善を要求し、MS法人で社内検討をしてから各業務課へ改善を指示するという流れが必要になるかもしれません。一体経営であればトップダウンで迅速で柔軟な経営を行えるのですが、経営が分かれていると経営判断が遅くなり硬直的な経営になってしまうおそれがあります。

MS法人のデメリット④経営がバラバラになってしまうおそれがある

MS法人のデメリット③として「トップダウン経営をしにくくなる」ことを挙げましたが、さらに悪いケースだと経営がバラバラになってしまうことがあります。相続対策というメリットを最大限に受けるためにMS法人の株主を100%親族にするケースがありますが、親族と仲良くやっていければいいですが離婚や喧嘩で離れ離れになってしまうことがあります。そうなると、本来は医療機関とMS法人はお互いに協力し合ってよりよい医療を提供しなければならないのですが、経営がバラバラになってしまいひいては医療体制にも影響が出てしまうおそれがあります。さらに、医療機関とMS法人は密接に関係のある会社なので契約期間が長期若しくは契約期間の定めのない契約になっていることも考えられ、経営がバラバラな状態が長期間続くことになってしまうかもしれません。

今や3組に1組が離婚する時代ですので、MS法人の株主を100%奥様にしてしまうと3分の1の確率で医療機関の経営がバラバラになってしまうことになります。一体経営にするために離婚した前妻さんから株式を買い取ろうとすると、第三者との取引となり相当の資金が必要になることでしょう。

最後に

MS法人を設立するかどうかの検討にあたってはメリットとデメリットをしっかりと比較し、メリットの方が大きい場合にMS法人を活用すべきです。また、最初の株主構成を間違えてしまうとデメリット④で述べたように医療機関の経営がバラバラになってしまうおそれもあるため、MS法人の設立は顧問税理士などの専門家に相談してから実施した方がいいでしょう。

税理士法人MFMは医院・歯科クリニックの開業~相続・事業承継まで長い視点でサポートしていますので、MS法人の設立でお悩みの方はご相談下さい。税理士法人MFMは大阪を拠点としていますが関西(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県)のみならず、お電話、オンライン、Web会議(Zoomなど)で全国の事業者様のサポートをしています。