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有価証券報告書とは

有価証券報告書とは、金融商品取引法によって上場会社などに事業年度ごとに作成を義務付けているもので、財務諸表などの企業情報を外部に開示するための資料のことです。
読み方は「ゆうかしょうけんほうこくしょ」です。
作成義務のある上場会社などの管理部門、監査法人、金融機関などでは、略して「有報」(ゆうほう)と呼ぶこともあります。
英語では「Securities Report」と言われます。

似たような名前で「Annual Report」(年次報告書)とういものがあります。
しかし、これは企業がディスクロージャー(情報開示)の一環として、株主などのために任意で作成する資料で、決算短信や有価証券報告書とは異なり法的には作成する義務はないものです。
当初は、主にグローバル企業が海外投資家向けに英語で情報開示をするために作成されていました。
しかし近年では、日本の投資家向けに日本語でも作成されるようになってきており、財務数値もグラフやカラフルな色を使うことによって見やすくなっています。
そのため、企業理念、社長メッセージ、事業戦略など、財務数値以外で企業がアピールしたい内容が織り込まれているのが一般的です。

有価証券報告書の閲覧方法

EDINETで閲覧する

最も一般的な有価証券報告書の閲覧方法は、EDINET(エディネット)のサイトを利用する方法です。
EDINETは、金融庁が行政サービスの一環で提供してくれているシステムで、有価証券報告書の他に、四半期報告書、有価証券届出書、大量保有報告書などの開示書類を、無料で公表しています。
いつでも(24時間365日)見ることができる閲覧サイトですが、最近5年以内に提出されたもののみ閲覧可能になっています。
後述しますが、有価証券報告書の【主要な経営指標等の推移】では、過去5期の重要な経営指標が記載されていますので、主要な財務指標は合計すると過去9期見ることができます。
そのため、上場企業への投資判断を行う際には、基本的には最近5年間の有価証券報告書があれば十分ではないかと思いますが、5年以上前の過去のものを閲覧する方法もあります。

企業のホームページにアクセスする

企業によりますが、ホームページ上に5年以上前の過去の有価証券報告書を公開している企業もあります。
まずは閲覧したい企業のホームページにアクセスするのがよいでしょう。

国立国会図書館で閲覧する

国立国会図書館には、過去の「有価証券報告書総覧」を置いています。
この「有価証券報告書総覧」は、金融商品取引法の規定に基づいて財務省に提出された有価証券報告書をそのまま縮刷・編集したものです。
国立国会図書館は、東京と大阪にありますが、「有価証券報告書総覧」(冊子体)、および有価証券報告書(マイクロフィルム)は、EDINETで閲覧できない過去分も含め、東京本館でのみ所蔵しているようです。
関西館では、所蔵しているCD-ROMや、契約しているデータベースで閲覧可能なものもあるようです。

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全国官報販売協同組合で購入する

全国官報販売協同組合のホームページ上で、過去の「有価証券報告書総覧」を購入することができます。

有価証券報告書の見方のポイント

有価証券報告書は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」などの規定に基づき記載項目が詳細に定められています。
ただし、企業によっては、該当しない項目は記載していなかったり、追加で任意で記載している項目などがあることから、少しずつ記載内容が異なっています。
有価証券報告書をあまり見たことがない方のために、見方のポイントを簡単に記載しています。
なお、このコラムは平成31年3月現在の情報に基づいて作成しております。
記載内容は毎年改正がありますのでご注意ください。
また、文中意見にわたる事柄については私見であることをお断りします。

有価証券報告書は、第一部【企業情報】と第二部【提出会社の保証会社等の情報】の二つの部から構成されています。
第二部【提出会社の保証会社等の情報】は、「該当事項はありません。」の1行だけ書かれていることが多く、基本的には第一部【企業情報】を見ることになります。

第一部【企業情報】の記載項目です。
第1【企業の概況】
1【主要な経営指標等の推移】
2【沿革】
3【事業の内容】
4【関係会社の状況】
5【従業員の状況】
第2【事業の状況】
1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
2【事業等リスク】
3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
4【経営上の重要な契約等】
5【研究開発活動】
第3【設備の状況】
1【設備投資等の概要】
2【主要な設備の状況】
3【設備の新設、除却等の計画】
第4【提出会社の状況】
1【株式等の状況】
2【自己株式の取得等の状況】
3【配当政策】
4【株価の推移】
5【役員の状況】
6【コーポレート・ガバナンスの状況等】
第5【経理の状況】
1【連結財務諸表等】
2【財務諸表等】
第6【提出会社の株式事務の概要】
第7【提出会社の参考情報】
1【提出会社の親会社等の情報】
2【その他の参考情報】

第1【企業の概況】

1【主要な経営指標等の推移】

有価証券報告書の一番最初の記載項目であり、過去5期の主要な経営指標などが記載されています。
とても見やすい形になっており、この1ページを見るだけで企業の概ねの業績とそのトレンドを把握することができます。
売上や利益などの指標により、企業の業績を把握できます。
株価収益率により、この企業の株価が割安なのか割高なのかを判断することができます。
キャッシュ・フローや従業員数を見ることにより、今現在、企業のライフサイクル(創生期、成長期、成熟期、衰退期、再生期)のどの時期にいるのかの検討にも役立つでしょう。

記載されている主要な経営指標等です。
□ 売上収益
□ 税引前当期利益
□ 当期利益
□ 当期包括利益
□ 親会社の所有者に帰属する持分
□ 総資産額
□ 1株当たり親会社所有者帰属持分
□ 基本的1株当たり当期利益
□ 希薄化後1株当たり当期利益
□ 親会社所有者帰属持分比率
□ 親会社所有者帰属持分当期利益率
□ 株価収益率
□ 営業活動によるキャッシュ・フロー
□ 投資活動によるキャッシュ・フロー
□ 財務活動によるキャッシュ・フロー
□ 現金及び現金同等物の期末残高
□ 従業員数

2【沿革】

会社設立時から現在までの企業の重要な出来事(商号の変更、組織再編等)が記載されています。
海外進出を進めているかや特定の事業分野への事業開拓を進めているかなど、企業の進んでいる方向性が分かります。
その企業の有価証券報告書を見たことがあるのであれば、過去の部分は基本的には変わらないので最近の部分だけ見れば十分でしょう。

3【事業の内容】

取締役会などの企業の最高経営意思決定機関が業績を評価する区分であるセグメントごとに事業の内容を記載することになっています。
後で何回も出てきますが、有価証券報告書はセグメントに関連付けて記載されることが多いので、ここでどのようなセグメントがあるのかを把握しておく必要があります。

4【関係会社の状況】

主要な関係会社名が記載されています。
重要性の乏しい関係会社については、会社の数のみ記載されていることが多くなっています。

5【従業員の状況】

セグメントごとの従業員数が記載されています。
また、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与が記載されており、新卒のリクルートや転職を考えている方はこの部分が参考になっているようです。

第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

企業のビジョンや進むべき方向性が記載されているので、投資を検討されている方は1度はしっかりと目を通した方がよいかもしれません。

2【事業等リスク】

政府の規制、国際事業展開におけるカントリーリスク、M&A(Mergers and Acquisitions)のリスク、個人情報のリスクなど、各社様々な事業リスクを記載しています。
顕在化してしまうと投資家の判断に重要な影響を及ぼすリスクが記載されています。
何十年とリスクが顕在化しないこともありますし、すぐに表面化していしまうこともあります。
当たり前の事が書かれていることが多いですが、一度は目を通しておいた方がよいでしょう。
コラム「M&Aとは」

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を分析したものが文書で記載されています。
経営成績はセグメントごとに記載されていることもあります。

4【経営上の重要な契約等】

M&Aによる株式取得の契約、合弁事業の契約、技術提携の契約など、重要な契約等が記載されています。

5【研究開発活動】

セグメントに関連付けてどの事業分野に研究開発費を投入し先行投資をしているのかが分かります

第3【設備の状況】

1【設備投資等の概要】

セグメントに関連付けて当期の設備投資額が記載されています。

2【主要な設備の状況】

セグメントに関連付けて、会社、勘定科目ごとに主要な設備の状況が記載されています。

3【設備の新設、除却等の計画】

セグメントに関連付けて、重要な設備の新設、除却の計画が記載されています。

第4【提出会社の状況】

1【株式等の状況】

発行可能株式総数、発行済株式数、ストックオプション、大株主の状況などが記載されています。
ストックオプションは株価に影響を与えることもあり投資情報として重要であるため、しっかりとした情報開示がされています。

上場会社でも同族会社に近い企業も数多くあります。
大株主の状況を見れば、同族経営かそうでないかが分かります。

2【自己株式の取得等の状況】

自己株式の情報は投資情報として重要であるため、多くの情報開示がされています。

3【配当政策】

安定したインカムゲインを求める投資家や、大きなキャピタルゲインを求める投資家など、そのスタンスは投資家により異なります。
企業の配当に対する考え方はこの部分を見ると理解できるでしょう。

4【株価の推移】

最近5年間の株価、最近6月間の株価が情報として開示されています。

5【役員の状況】

すべての役員の氏名や略歴等が記載されています。
また、親族関係がある場合、注記されることになっています。

6【コーポレート・ガバナンスの状況等】

コーポレート・ガバナンス(企業統治)の状況、役員報酬、監査報酬などが記載されています。
役員報酬の開示制度が2010年3月決算から始まり、取締役、監査役、社外役員別の役員報酬等の総額が記載されています。
また年間1億円以上の役員報酬を受け取る役員の氏名と報酬額の開示も義務付けられているため、ここに記載されています。

非監査業務(IFRSアドバイザリー業務やM&Aのデューデリジェンス業務など)の報酬も公表されています。
コラム「デューデリジェンスとは
コラム「デューデリジェンスの種類と必要な資格」

第5【経理の状況】

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1【連結財務諸表等】

有価証券報告書の最も中心となる連結財務諸表等です。
非上場企業(中小企業)ではよく「決算書」と言われますが、上場企業では(連結)財務諸表と言われます。
IFRS(国際会計基準)と日本基準とでは、会計基準のみならず連結財務諸表の名称も異なっている部分があります。

IFRSで開示が求められる連結財務諸表等
□ 連結財政状態計算書
□ 連結損益計算書
□ 連結包括利益計算書
□ 連結持分変動計算書
□ 連結キャッシュ・フロー計算書
□ 連結財務諸表注記表
□ 連結附属明細書

日本基準で開示が求められる連結財務諸表等
□ 連結貸借対照表
□ 連結損益計算書
□ 連結包括利益計算書
□ 連結持分変動計算書
□ 連結キャッシュ・フロー計算書
□ 注記事項
□ 連結附属明細書

2【財務諸表等】

現在の金融商品取引法では、IFRS適用会社であっても単体の財務諸表は日本基準に基づいて作成する必要があります。

開示が求められる財務諸表等
□ 貸借対照表
□ 損益計算書
□ 株主資本等変動計算書
□ 注記事項
□ 附属明細書

第6【提出会社の株式事務の概要】

基準日、単元未満株式の買取、株主に対する特典などが記載されています。

有価証券報告書の記載例

有価証券報告書は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」などの規定に基づき記載項目が詳細に定められていますが、金融庁からはまとまった記載例は出されていないようです。
「記述情報の開示に関する原則」や「記述情報の開示の好事例集」といった記載に役立つ情報は金融庁が公表しています。
上場会社などでは、宝印刷やPRONEXUS(プロネクサス)といった民間の企業の発行している記載例を参考にして有価証券報告書を作成しています。

財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンス

M&Aの調査である財務デューデリジェンス(財務DD)は財務諸表監査の知識と経験があり、財務的なリスクを見抜ける能力に長けている公認会計士に依頼する方が安心です。
税務デューデリジェンス(税務DD)は税の専門家である税理士に依頼するのがよいでしょう。
税理士法人MFMではM&Aのデューデリジェンスの経験が豊富な公認会計士・税理士の有資格者によるデューデリジェンスを行っています。
どれだけ小さい案件のM&Aであっても四大監査法人出身の公認会計士がデューデリジェンス業務を監督しているため、安心してお任せ頂けます。
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M&Aのデューデリジェンスの詳しいお見積りはお問い合わせ下さい。

税理士法人MFM
M&A財務デューデリジェンス(財務DD)部門