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筆者:公認会計士・税理士 松浦孝安

事業再構築補助金の会計処理

事業再構築補助金とは

事業再構築補助金とは、新事業分野への進出等の新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援するための補助金です。
この事業再構築補助金は、2020年12月15日に閣議決定された令和2年度第3次補正予算に初めて盛り込まれた補助金です。
当初予算額1兆1,485億円、追加予算額6,123億円となっており、かなり大きな予算が割り当てられている補助金となっています。
正式名称は「中小企業等事業再構築促進事業」です。

このコラムでは、無事に採択されて事業再構築補助金を受給できた場合に必要となる仕訳・会計処理や税務処理について説明しています。なお、文中の意見の部分は、筆者の私見であることをお断りします。

「収益認識に関する会計基準」への当てはめ

国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る観点から、日本においても収益認識に関する包括的な会計基準が創設され、2018年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第 29 号)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)が定められました。
ただし、この収益認識会計基準の適用範囲は、「顧客との契約」から生じる収益に限定されています。
ここで、事業再構築補助金は政府から受給するするものであり、「政府」は「顧客」ではありません。
そのため、政府補助金である事業再構築補助金は収益認識会計基準の適用範囲外となり、当該会計基準では会計処理を行うことができないという結論になります。

(収益認識会計基準)
3. 本会計基準は、次の(1)から(7)を除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される。
5. 「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいう。
6. 「顧客」とは、対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者をいう。

他の会計基準への当てはめ

先ほど少し触れましたが、以前は日本において収益認識に関する包括的な会計基準が存在しなかったため、2018年に収益認識会計基準が創設されたという経緯があります。
そのため、補助金の収益認識に関する明確な会計基準は存在していないのが実情です。

税務会計に基づく処理

会計基準に明確な規定がない場合、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うことになります。
そのような場合、税法に引っ張られる形で会計処理を行うことになるため、事業再構築補助金の会計処理は後述する「事業再構築補助金の税務処理」と同様に処理するのが一般的です。

事業再構築補助金の税務処理

補助金申請時の仕訳

仕訳なし
※事業再構築補助金は、申請すればもらえるものではなく採択されて受給できるものであるため、申請時には権利は確定していません。

支給決定通知書受取時の仕訳

借方貸方
預金500雑収入500

※国や地方公共団体などから補助金の支給決定通知書を受け取った時点で受給できる権利が確定したと考えられるため、支給決定があった日の属する事業年度の益金に計上すると思われます。
※決算日をまたいで入金される場合は未収計上が必要です。
※補助金は営業収入ではないため、売上高ではなく営業外収益又は特別利益に区分されます。
※補助金の消費税は不課税です。
※補助事業者が課税事業者(免税事業者及び簡易課税事業者以外)の場合、補助事業に係る課税仕入に伴い、消費税及び地方消費税の還付金が発生することになるため、この還付と補助金交付が重複しないよう、課税仕入の際の消費税及び地方消費税相当額について、原則としてあらかじめ補助対象経費から減額しておくこととされています。

(以下、参考資料)
法人税基本通達2-1-42(法令に基づき交付を受ける給付金等の帰属の時期)
法人の支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費を補填するために雇用保険法、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定等に基づき交付を受ける給付金等については、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度終了の日においてその交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入するものとする。
(注)法人が定年の延長、高齢者及び身体障害者の雇用等の雇用の改善を図ったこと等によりこれらの法令の規定等に基づき交付を受ける奨励金等の額については、その支給決定があった日の属する事業年度の益金の額に算入する。

国税庁タックスアンサーNo.6157「課税の対象とならないもの(不課税)の具体例」
消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供(以下「資産の譲渡等」といいます。)が課税の対象となります。したがって、次のような取引は、課税の対象となりません。
2. (2) 寄附金、祝金、見舞金、補助金等・・・・一般的に対価として支払われるものではないからです。

補助⾦等に係る予算の執⾏の適正化に関する法律15条(補助金等の額の確定等)
各省各庁の長は、補助事業等の完了又は廃止に係る補助事業等の成果の報告を受けた場合においては、報告書等の書類の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、その報告に係る補助事業等の成果が補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件に適合するものであるかどうかを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定し、当該補助事業者等に通知しなければならない。

国庫補助金等の圧縮記帳の活用

圧縮記帳をしなかった場合

国や地方公共団体などから支給決定通知書を受け取った時点で、その補助金が益金(収入)に計上されて課税されます。
一方で補助金で固定資産を取得した場合、通常の処理方法によれば、税務上の耐用年数(例えば化学工業用の機械装置であれば5年)で減価償却を行い損金(費用)に計上されることになります。
そうすると、補助金を受給した事業年度において、その補助金の多くが課税されてしまうことになってしまいます。
せっかく補助金を受給したのに、最悪の場合、法人であれば3割以上を法人税で、個人事業主であれば5割以上を所得税及び住民税で取られてしまうことになってしまうのです。
もしそのような課税がなされてしまうと、補助金を交付した産業政策から見て好ましいものではなく、補助金を交付した意味が薄らいでしまいます。

圧縮記帳の効果

そこで、課税を翌事業年度以降に繰り延べるために活用されるのが、圧縮記帳(あっしゅくきちょう)です。
圧縮記帳とは、国庫補助金や保険金などにより固定資産を購入した場合、その購入価額から補助金や保険金の金額を損金(費用)として控除した額を帳簿価額とする記帳方法です。

①通常の処理②圧縮記帳利益の差額
(②-①)
1年目補助金 500
圧縮損 -
――――――
利益額 500
補助金 500
圧縮損 -500
――――――
利益額 ゼロ
-500
2年目減価償却費 100減価償却費 ゼロ100
3年目減価償却費 100減価償却費 ゼロ100
4年目減価償却費 100減価償却費 ゼロ100
5年目減価償却費 100減価償却費 ゼロ100
6年目減価償却費 100減価償却費 ゼロ100
合計0

上図のように圧縮記帳をするしないに関わらず最終的には損益は同じになるため、圧縮記帳は減税ではなく課税の繰り延べとなります。

事業再構築補助金の圧縮記帳の取扱い

8月11日に独立行政法人中小企業基盤整備機構から「中小企業等事業再構築促進補助金における圧縮記帳等の適用について」という情報が出ました。

国税庁から圧縮記帳等の適用が認められる旨の回答を受領しているため、事業再構築補助金で取得した固定資産についても圧縮記帳の対象となります。

法人税の国庫補助金等の圧縮記帳の規定

法人については、法人税法において国庫補助金等の圧縮記帳の規定が設けられています。
・国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入(法人税法42条)
・国庫補助金等に係る特別勘定の金額の損金算入(法人税法43条)
・特別勘定を設けた場合の国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入(法人税法第44条)

個人事業主については、所得税法の国庫補助金等の総収入金額不算入の規定により、圧縮記帳と同等の税務上の効果を受けることができます。

事業再構築補助金の申請サポート(事業計画の作成支援)

税理士法人MFMは、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)としてこれまで多くの事業計画の作成支援を行い、中小企業・中堅企業の経営を支援してきました。税理士法人MFMの第5回公募の採択率は4件中4件採択(採択率100%)と平均的な採択率を大きく上回っていました。採択されやすいポイントを押さえた事業再構築補助金の事業計画の作成を支援いたします。費用・料金も利用しやすい低価格になっています。

認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の名称税理士法人MFM
大阪事務所大阪府大阪市北区豊崎三丁目17番29号
TEL:06-6371-1768
認定日2018年12月21日
具体的相談内容等創業等支援、事業計画作成支援、経営改善、事業承継、M&A、事業再生、情報化戦略、販売開拓・マーケティング、マッチング、人材育成、人事・労務、海外展開等、BCP(事業継続計画)作成支援
M&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)

税理士法人MFMグループは大阪、東京を拠点としていますが、関西(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県)や関東(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県)のみならず、お電話、オンライン、Web会議(Zoomなど)で全国の事業再構築補助金の申請サポート(事業計画の作成支援)が可能です。