貸倒引当金とは何か
貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)とは、将来における売掛金、受取手形、貸付金など債権の回収不能による貸倒損失の発生に備えて、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として繰入れるとともに、貸借対照表の資産の部の評価勘定(または負債の部)に計上するものです。
英語では、「Allowance for doubtful accounts」といいます。
また、「貸倒れ」とは、売掛金、受取手形、貸付金などの債権が、債務者の倒産などによって回収不能になることです。
当期末における売掛金などの債権が、翌期以降に貸倒れることによって損失が発生するおそれがあります。
そこで、あらかじめ翌期以降に貸倒れることが予測できる場合には、当期末においてその金額を見積もり、その見積額を当期の費用又は損失として計上することができます。
「貸倒引当金繰入額」という勘定科目を用いて損益計算書に計上します。
複式簿記は相手となる勘定科目が必要となるため、「貸倒引当金」という相手勘定で処理します。
そして貸借対照表においては、売掛金などの債権を直接減額するのではなく、貸借対照表上「貸倒引当金」という評価勘定を用いて控除する形で表示します。
貸倒引当金は債務の確定とは関係なく計上されるものです。
そのため、貸倒引当金は債務確定主義の例外的な取り扱いになっています。
コラム「債務確定主義とは」
貸倒引当金は日商簿記検定の3級の試験で出題される勘定科目です。
そのため、簿記を少し勉強した方であれば聞いたことがあるような基本的な勘定科目です。
しかし、貸倒引当金は簿記3級の試験の中で最も理解するのが難しくつまずきやすい項目の1つになっています。
それは、現金・預金の入出金はなく、また商品などの資産も動いていないのに仕訳が発生するからです。
貸倒引当金の繰入と戻入の仕訳
それでは貸倒引当金の仕訳を具体的に見ていきましょう。
商品売上時
借方 | 貸方 | ||
売掛金 | 100,000 | 売上 | 100,000 |
期末時
借方 | 貸方 | ||
貸倒引当金繰入額 | 100 | 貸倒引当金 | 100 |
売掛金100,000が期末に残っており貸倒れが発生するおそれが0.1%と見積もられたのであれば、100,000×0.1%=100の貸倒引当金を計上します。
翌期に貸倒れが発生するケース-貸倒れ時
借方 | 貸方 | ||
貸倒引当金 | 100 | 売掛金 | 100 |
翌期に貸倒れが発生しないケース-期末時
補充法(差額補充法)
仕訳なし
洗替法
借方 | 貸方 | ||
貸倒引当金 | 100 | 貸倒引当金戻入益 | 100 |
貸倒引当金繰入額 | 100 | 貸倒引当金 | 100 |
翌期末も売掛金の残高100,000であり貸倒れが発生するおそれも0.1%と見積もられたのであれば、貸倒引当金は100,000×0.1%=100となり、前期末と同額になります。
貸倒引当金の設定方法は、補充法(差額補充法)(さがくほじゅうほう)と洗替法(あらいがえほう)の2つの方法があります。
補充法(差額補充法)とは、期末の貸倒引当金の残高と期末に計上すべき貸倒引当金の差額分だけを繰り入れる方法です。
洗替法とは、期末の貸倒引当金の残高を全額戻し入れるとともに、新たに貸倒引当金を繰り入れる方法です。
貸倒引当金繰入額の損益計算書における計上区分
貸倒引当金を計上するには「貸倒引当金繰入額」勘定を使うというのを見てきましたが、実務的には損益計算書上は「販売費及び一般管理費」に計上されるケースと「営業外費用」に計上されるケースと「特別損失」に計上されるケースの3つのケースがあります。
(特別損失に計上されるケースは稀です。また、国際会計基準(IFRS)ではそもそも特別損失の表示区分は存在しません)
売上債権などの営業債権に対する貸倒引当金繰入額・・・「販売費及び一般管理費」
貸付金などの営業外債権に対する貸倒引当金繰入額・・・「営業外費用」
臨時、異常な貸倒引当金繰入額・・・「特別損失」
に計上することになります。
(金融商品会計に関する実務指針125より抜粋)
・・・繰入額の方が多い場合にはその差額を繰入額算定の基礎となった対象債権の割合等合理的な按分基準によって営業費用(対象債権が営業上の取引に基づく債権である場合)又は営業外費用(対象債権が営業外の取引に基づく債権である場合)に計上するものとする。
貸倒引当金の貸借対照表における計上区分
貸借対照表においては、売掛金などの債権を直接減額するのではなく、貸借対照表上「貸倒引当金」という評価勘定を用いて控除する形で表示しますが、「流動資産(又は流動負債)」に計上されるケースと「固定資産(又は固定負債)」に計上されるケースがあります。
流動資産に対する貸倒引当金・・「流動資産(又は固定負債)」
固定資産に対する貸倒引当金・・「固定資産(又は固定負債)」
に計上することになります。
(企業会計原則 注解 注17)
貸倒引当金又は減価償却累計額は、その債権又は有形固定資産が属する科目ごとに控除する形式で表示することを原則とするが、次の方法によることも妨げない。
(1)2以上の科目について、貸倒引当金又は減価償却累計額を一括して記載する方法
(2)債権又は有形固定資産について、貸倒引当金又は減価償却累計額を控除した残額のみを記載し、当該貸倒引当金又は減価償却累計額を注記する方法
M&A(Mergers and Acquisitions)の財務デューデリジェンス(財務DD)においては、金銭債権の回収可能性を検討する必要があり、個別評価金銭債権に該当するような債権については、貸倒引当金が適切に計上されているか(債権が適切に評価されているか)というのが重要なポイントになります。
また、貸倒引当金繰入額の損益計算書における計上区分を検討することにより、正しい営業利益や経常利益を把握し本来の収益性を把握することもM&Aの財務DDにおいて大切です。
コラム「デューデリジェンスとは」
コラム「財務デューデリジェンスと事前依頼資料」
貸倒れのリスクに応じた2種類の貸倒引当金
税務上、貸倒れのリスクに応じて2つの種類の貸倒引当金に分けられます。
1.一括評価金銭債権に対する貸倒引当金
簡単に説明すると、一括評価金銭債権とは貸倒れの懸念が低い通常の債権のことです。
貸倒れの懸念が低い通常の債権については、一括して貸倒引当金を計算します。
また、この貸倒引当金の計算方法にも2つの方法があり、法定繰入率を使用する方法と、貸倒実績率を使用する方法があります。
2.個別評価金銭債権に対する貸倒引当金
簡単に説明すると、個別評価金銭債権とは貸倒れの懸念が高い債権のことです。
貸倒れの懸念が高い債権については、その債権ごとに個別に評価して貸倒引当金を計算します。
次は、貸倒引当金の具体的な計算方法について見ていきます。
コラム「貸倒引当金の計算方法」
財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンス
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