繰延資産とは何か
繰延資産(くりのべしさん)とは、支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものを意味します(法人税法2条24号)
会計学を勉強された方であれば下記の定義の方がしっくりくるかもしれません。
繰延資産とは、すでに対価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用(企業会計原則注解 注15)
費用収益対応の原則により適正な期間損益計算を行うという観点からは、たとえ当期に発生した費用であっても、将来の収益獲得に貢献すると期待されるものであれば、将来の収益と合理的に対応させて費用化していくことになります。
繰延資産は換金価値を持つ「貨幣性資産」ではなく「費用性資産」です。
「会計上の資産」や「擬制資産」と呼ばれることもあります。
繰延資産はM&A(Mergers and Acquisitions)の財務デューデリジェンス(財務DD)において資産価値として評価するのであればゼロ評価することになります。
コラム「デューデリジェンスとは」
繰延資産の償却期間
繰延資産は①創立費②開業費③開発費④株式交付費⑤社債等発行費⑥その他支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの、の6つです(法人税法施行令14条)
この内、①創立費②開業費③開発費④株式交付費⑤社債等発行費は、「会計上の繰延資産」と呼ばれています。
⑥その他支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものについては、「税務上の繰延資産」と呼ばれています。
税務上の繰延資産の償却期間
支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶ税務上の繰延資産には次のものがあります(法人税法施行令14条)
・自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
・資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用
・役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
・製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
・その他自己が便益を受けるために支出する費用(例.礼金など)
税務上の繰延資産は、一時の損金とすることはできず、税務で定められた償却期間にわたって規則的に償却を行う必要があります。
(後ほど述べますが、会計上の繰延資産は、任意償却です)
具体的な償却期間の判断にあたっては、法人税基本通達8-2-3に当てはめて判断する必要があります。
ただし、20万円未満の少額な繰延資産については、一時の損金として処理することができます(法人税法施行令134)
何が税務上の繰延資産に該当するのかどうかは、国税庁のホームページにある法人税基本通達や所得税基本通達に細かく記載されているので参考にするとよいでしょう。
一般の事業会社で最もよく出てくる税務上の繰延資産は、礼金です。
礼金の償却期間は3パターンあります。
1.20万円未満の礼金であれば一時の損金として処理できます。
2.賃借期間が5年未満で、契約の更新に際し権利金等の支払を要することが明らかなときは、その賃借期間が償却期間となります。
3.それ以外の場合は、償却期間は5年となります。
一般的には、「2」のケースは少ないため、20万円未満であれば一時の損金とし、20万円以上であれば5年で償却するケースがほとんどだと思います。
会計上の繰延資産の[税務上の]償却期間
会計上の繰延資産は先ほど述べた5つですが、それぞれの[税務上の]定義は下記のようになっています。
①創立費とは、発起人に支払う報酬、設立登記のために支出する登録免許税その他法人の設立のために支出する費用で、当該法人の負担に帰すべきものです。
②開業費とは、法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用のことです。
③開発費とは、新たな技術若しくは新たな経営組織の採用、資源の開発又は市場の開拓のために特別に支出する費用のことです。
④株式交付費とは、株券等の印刷費、資本金の増加の登記についての登録免許税その他自己の株式・出資の交付のために支出する費用のことです。
⑤社債等発行費とは、社債券等の印刷費その他債権・新株予約権の発行のために支出する費用のことです。
会計上の繰延資産の[税務上の]償却は任意償却とされていますので、いつでもいくらでも償却することが可能となっています(法令64条)
(償却方法は任意償却なのですが、法人税と所得税とで少し異なる取扱いがされている部分がありますので、詳しくは国税庁の各種情報を参照下さい)
会計上の繰延資産の[会計上の]償却期間
それぞれの[会計上の]定義と償却期間は下記のようになっています。
[税務上の]定義と比べるととても詳細な定義となっているため、繰延資産に該当するかどうかを判断するには、こちらの方を参考にする方がよいでしょう。
①創立費とは、会社の負担に帰すべき設立費用、例えば、定款及び諸規則作成のための費用、株式募集その他のための広告費、目論見書・株券等の印刷費、創立事務所の賃借料、設立事務に使用する使用人の給料、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、創立総会に関する費用その他会社設立事務に関する必要な費用、発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額並びに設立登記の登録免許税等のことです。
創立費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。
ただし、創立費を繰延資産に計上することができ、この場合には、会社の成立のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません。
②開業費とは、土地、建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、電気・ガス・水道料等で、会社成立後営業開始時までに支出した開業準備のための費用のことです。
開業費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。
ただし、開業費を繰延資産に計上することができ、この場合には、開業のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません。
開業費を販売費及び一般管理費として処理することも認められています。
③開発費とは、新技術又は新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓等のために支出した費用、生産能率の向上又は生産計画の変更等により、設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用のことです。
開発費は、原則として、支出時に費用(売上原価又は販売費及び一般管理費)として処理します。
ただし、開発費を繰延資産に計上することができ、この場合には、支出のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければなりません。
④株式交付費とは、株式募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・株券等の印刷費、変更登記の登録免許税、その他株式の交付等のために直接支出した費用のことです。
株式交付費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。
ただし、企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動に係る株式交付費については、繰延資産に計上することができ、この場合には、株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければなりません。
⑤社債発行費とは、社債募集のための広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、目論見書・社債券等の印刷費、社債の登記の登録免許税その他社債発行のため直接支出した費用のことです。
社債発行費は、原則として、支出時に費用(営業外費用)として処理します。
ただし、社債発行費を繰延資産に計上することができ、この場合には、社債の償還までの期間にわたり利息法により償却をしなければなりません。
なお、償却方法については、継続適用を条件として、定額法を採用することができます。
このように、[税務上の]償却は完全に任意償却とされていますが、[会計上]の償却は一定の期間内において規則的な任意償却を行うことが要求されています。
繰延資産の仕訳
開業費を一時の費用とせずに繰延資産として計上し、5年間の定額法で償却した場合の仕訳例です。
支出時の仕訳
(借) 開業費 100,000 (貸) 預金 100,000
期末時の仕訳
(借) 開業費償却 20,000 (貸) 開業費 20,000
繰延資産の消費税の処理
今まで見てきたように、繰延資産の内容は、各種支払手数料・広告費・賃借料などがあり、消費税が課されるものも多くなっています。
そのため、繰延資産に含まれる課税仕入れ等に係る対価の額は、その課税仕入れを行った日の属する課税期間において仕入れに係る消費税額の控除をすることとなりますので(消費税法基本通達11-3-4)、税抜経理方式か税込経理方式か会社が選択している処理方法で処理します。
また、個別対応方式により仕入控除税額を計算する場合には、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものとなります。
(国税庁:質疑応答事例「新株発行費用等についての仕入税額控除」)
創立費や開業費を計上することになる開業1期目であれば消費税の免税事業者であるケースが多いと思いますので、その場合には税込経理方式で処理することになります。
財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンス
M&Aの調査である財務デューデリジェンス(財務DD)は財務諸表監査の知識と経験があり、財務的なリスクを見抜ける能力に長けている公認会計士に依頼する方が安心です。
税務デューデリジェンス(税務DD)は税の専門家である税理士に依頼するのがよいでしょう。
税理士法人MFMではM&Aのデューデリジェンスの経験が豊富な公認会計士・税理士の有資格者によるデューデリジェンスを行っています。
どれだけ小さい案件のM&Aであっても四大監査法人出身の公認会計士がデューデリジェンス業務を監督しているため、安心してお任せ頂けます。
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税理士法人MFM
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