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会計をしていると、普段の月次処理ではあまり目にするはありませんが、決算の時に出てくるのが不動産の敷金と礼金です。
敷金は資産に計上する必要があり、退去した際には返金を受けるので資産から消し込まなければなりません。
店舗の敷金を間違えることはないと思いますが、金額が少ない駐車場の敷金は計上漏れや消し込み漏れが起きやすくなっています。
また、礼金は償却が可能なので、決算ギリギリになって償却費の計上により見込損益が違っていた・・などということは避けなければなりません。
このコラムでは、敷金と礼金の会計処理と税務上の取扱いについて見ていきます。

敷金

敷金とは何か

敷金(しききん)とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう(改正民法622条の2)。
そして、賃貸人は、敷金を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければなりません(改正民法622条の2)。
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

簡単に言うと、敷金は家主への預け金であり将来返金されるものです。
礼金は将来返金されませんが、敷金は礼金とは違い将来返金れます。
この不動産の敷金は、地域によって呼び方が異なり、「権利金」と言われたり、西日本では「保証金」と言われたりします。
ただし、西日本では「敷引(しきびき)」や「解約引き(かいやくびき)」と呼ばれ、返還されない部分が存在することがあるので注意が必要です。
この「敷引」や「解約引き」は、実質的には敷金ではないため、礼金に準じて処理する必要があります。

民法が約120年ぶりに大改正され、2020年4月1日から施行される民法改正では、不動産の賃貸借契約においてトラブルが多い敷金について、その定義が明文化されました。
また、従来は原状回復に関するトラブルについては、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によって解決が図られることが多くありました。
この原状回復ガイドラインは、法的拘束力はありませんが過去の裁判例などを踏まえて作成されているものであるため、実務的にはこれを判断基準として処理されてきました。
改正民法では、このような一般的な取り扱いが明文化されたことから、実務上の取扱いには大きな変化はありません。

敷金が必要な理由

敷金は、不動産の物件の賃借人が、賃貸人(家主)に対する家賃の支払いや原状回復費のための資金を保全するために預けておくお金です。
家賃が未払状態になってしまった場合や、必要な原状回復費を支払わずに退去された場合、賃貸人(家主)は損失を被ってしまいます。
賃貸人(家主)がこのような損失を被らないように、一定の資金を担保として預けておくのです。

敷金の目安は、地域にもよりますが、住宅の場合は家賃の1ヶ月分です。
ただし最近では、敷金礼金ゼロ物件(ゼロゼロ物件)の住宅も増えてきており、少しずつ不動産の商慣習の変化も見られます。

敷金の消費税

消費税は、資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けた場合に支払う必要があります(消費税法第2条第1項第12号)。
簡単に言うと、物品の売買や賃貸借、サービスの提供を行った場合に消費税が必要になります。
この点、敷金は先ほど見た定義にあるように、担保として預けて置くお金であり、賃貸借契約終了後に返還されるものです。
そのため、敷金に消費税は不要です。

敷金の勘定科目

先ほど述べたように、敷金は地域によって呼び方が異なることもあり、以下のように様々な名称の勘定科目で仕訳処理されます。
・敷金
・保証金
・差入保証金

上場会社の有価証券報告書の貸借対照表では、次のような表示になっています。
・敷金
・差入保証金
・敷金及び保証金
※「保証金」とする開示事例もありますが数は少ないように見受けられました。

M&A(Mergers and Acquisitions)の財務デューデリジェンス(財務DD)においては、不動産の敷金が適切に計上されているかを確認する必要があります。
費用処理すべき礼金や敷引が敷金のように資産計上されている場合、架空資産が計上されてしまっていることになります。
コラム「その他資産の財務デューデリジェンスのチェックリスト」

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礼金

礼金とは何か

礼金(れいきん)とは、不動産の賃貸借契約時に賃借人が賃貸人(家主)に対してお礼として支払う金銭であり、将来返金されないものです。
敷金は将来返金されますが、礼金は敷金とは違い将来返金されません。

礼金は、その名の通り、部屋を貸してもらうことに対する「お礼」として包むお金という意味があります。
日本は戦後、空襲で焼け野原になってしまい、住宅が不足していました。
そのような時に、住宅を貸してくれた大家さんに、お礼の意味で渡したお金が礼金の始まりであるとされ、東京を中心に広がったと言われています。

礼金の目安は、地域にもよりますが、住宅の場合は家賃の1ヶ月分が目安です。
最近では、敷金礼金なしの物件(ゼロゼロ物件)の住宅も増えてきており、少しずつ不動産の商慣習の変化も見られます。

礼金の消費税

物品の売買や賃貸借、サービスの提供を行った場合に消費税が必要になります。
この礼金は、賃貸借契約に伴い発生するため、消費税の課税の対象となります。
ただし、住宅の貸付けは非課税とされているため、礼金についても消費税は非課税となります。

オフィスの礼金→消費税は課税
住宅の礼金→消費税は非課税

礼金の会計処理

税務上、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものは繰延資産とされ、自己が便益を受けるために支出する費用である礼金も税務上の繰延資産に該当します(法人税法施行令14条)。
税務上の繰延資産は、一時の損金とすることはできず、税務で定められた償却期間にわたって規則的に償却を行う必要があります。
ただし、20万円未満の少額な繰延資産については、一時の損金として処理することができます(法人税法施行令134)。

20万円以上の礼金→繰延資産
20万円未満の礼金→損金処理

会計上も、税務上な取り扱いに合わせる形で会計処理を行うのが一般的です。

コラム「繰延資産とは。償却期間と償却方法」

礼金の勘定科目

20万円以上の礼金で、税務上の繰延資産に該当したとしても、あくまで「税務上」での取り扱いであり、会計上は繰延資産ではなく「長期前払費用」として仕訳処理するのが一般的です。
長期前払費用として計上された礼金の償却期間は、以下のようになっています。
・賃借期間が5年未満で、契約の更新に際し権利金等の支払を要することが明らかなときは、その賃借期間
・それ以外の場合は5年

礼金を費用処理する際は、以下のような勘定科目で仕訳処理されます。
・長期前払費用償却
・賃借料
・地代家賃

M&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)においては、不動産の礼金が適切に計上されているかを確認する必要があります。
費用処理すべき礼金や敷引が資産計上されている場合、架空資産が計上されてしまっていることになります。
コラム「デューデリジェンスの種類と必要な資格」
コラム「経理担当者から見たM&Aのデューデリジェンスの流れと注意点」

財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンス

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