赤字会社のM&Aで節税効果はあるのか??

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以前は、繰越欠損金や含み損があるペーパー会社をM&Aで取得し、利益が確実に出ると見込まれる事業を当該ペーパー会社に移転することなどにより、繰越欠損金を利用して節税効果を狙うM&Aが行われていた。
この租税回避スキームが平成18年度税制改正により封じられたため、現在では繰越欠損金や含み損がある資産を有する会社をM&Aする際には注意が必要である。
結論から言うと、現在では特に節税効果を狙って赤字会社や債務超過会社をM&Aしようとすると次の2つの規定に道をふさがれ、また抜け道もほぼふさがれている。
1.特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)
2.特定株主等によって支配された欠損等法人の資産の譲渡等損失額の損金不算入(法人税法60条の3)
また多くの抜け道がふさがれているため、節税効果は狙っておらず純粋にシナジー効果を狙っているM&Aであっても、買収対象会社が欠損等法人であれば意図せずにこの規定にひっかかってしまうこともある。

欠損等法人

欠損等法人とは

欠損金の繰越しの不適用、資産の譲渡等損失額の損金不算入の規定の適用を受けるのは欠損等法人であるため、その定義を見ていく。
欠損等法人とは、特定の株主による特定支配関係がある内国法人で、欠損金額または評価損資産を有する法人である。

特定支配関係とは

特定の株主によって50%を超える株式等を直接または間接に保有される関係である。
この特定の株主は、法人株主に限られず個人株主も含まれている。
⇒法人株主によるM&Aを避けて個人株主によるM&Aをしても抜け道はふさがれている。

評価損資産の範囲

固定資産、土地、有価証券、金銭債権、繰延資産、資産調整勘定で、特定支配事業年度開始日の時価が帳簿価額に満たない資産(含み損の額が資本金等の額の2分の1に相当する金額と1,000万円とのいずれか少ない金額に満たないものは除く)。

特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)

欠損金の繰越しの不適用を受ける6つの事象

M&Aにより欠損等法人を取得したから直ちに欠損金の繰越しの不適用を受けることはなく、特定支配関係が生じた日以後5年以内に次の6つの事象に該当した場合に欠損金の繰越しの不適用を受けることとなる。

①欠損等法人が休業状態から再開業

欠損等法人が当該支配日の直前において事業を営んでいない場合(清算中の場合を含む。)において、当該支配日以後に事業を開始すること(清算中の当該欠損等法人が継続することを含む。)。

②欠損等法人が事業のすべてを廃止し旧事業の5倍超の資金注入

欠損等法人が当該支配日の直前において営む事業(「旧事業」という。)の全てを当該支配日以後に廃止し、又は廃止することが見込まれている場合において、当該旧事業の当該支配日の直前における事業規模(売上金額、収入金額その他の事業の種類に応じて政令で定めるものをいう。)のおおむね五倍を超える資金の借入れ又は出資による金銭その他の資産の受入れ(合併又は分割による資産の受入れを含む。次号において「資金借入れ等」という。)を行うこと。

③特定債権を取得し事業規模の5倍以上の資金注入

欠損等法人に対する債権で政令で定めるもの(特定債権。債権の額面の50%未満で債務の総額の50%超)を取得している場合(当該支配日前に特定債権を取得している場合を含むものとし、当該特定債権につき当該支配日以後に債務免除等を行うことが見込まれている場合その他の政令で定める場合を除く。)において、当該欠損等法人が旧事業の当該支配日の直前における事業規模のおおむね五倍を超える資金借入れ等を行うこと。
欠損等法人が中小企業の場合、役員借入金が多額に計上されていることも多く、例えば当該役員借入金を1円で債務の総額の50%超取得すると、特定債権を取得したこととなる。
⇒中小企業では特定債権にも注意が必要となる。

④ ①の場合 or ②の場合 or 特定債権を取得して適格合併

①若しくは②又は特定債権が取得されている場合において、当該欠損等法人が自己を被合併法人とする適格合併を行い、又は当該欠損等法人(他の内国法人との間に当該他の内国法人による完全支配関係があるものに限る。)の残余財産が確定すること。
⇒適格合併の要件を満たしても抜け道はふさがれている。

⑤特定役員の全てが退任し、使用人の20%以上が退職し、旧事業の5倍超の非従事事業

当該欠損等法人が当該特定支配関係を有することとなったことに基因して、当該欠損等法人の当該支配日の直前の役員(社長その他政令で定めるものに限る。)の全てが退任(業務を執行しないものとなることを含む。)をし、かつ、当該支配日の直前において当該欠損等法人の業務に従事する使用人(以下この号において「旧使用人」という。)の総数のおおむね百分の二十以上に相当する数の者が当該欠損等法人の使用人でなくなつた場合において、当該欠損等法人の非従事事業(当該旧使用人が当該支配日以後その業務に実質的に従事しない事業をいう。)の事業規模が旧事業の当該支配日の直前における事業規模のおおむね五倍を超えることとなること(政令で定める場合を除く。)。

⑥その他政令で定める事由

①~⑤の事由に類するものとして政令で定める事由。

不適用の対象となる繰越欠損金

適用事業年度(不適用となる事象が発生した事業年度)前の各事業年度において生じた欠損金額。

特定株主等によって支配された欠損等法人の資産の譲渡等損失額の損金不算入(法人税法60条の3)

M&Aにより欠損等法人を取得したから直ちに譲渡等損失額が損金不算入になるのではなく、下記の事象に該当した場合に譲渡等損失額の損金不算入の適用を受けることとなる。

譲渡等損失額の損金不算入を受ける事象

適用事業年度(不適用となる事象が発生した事業年度)開始の日から3年を経過する日までに譲渡、評価替え、貸倒れ、除却等をした場合。

まとめ

現在では、特に節税効果を狙って赤字会社や債務超過会社をM&Aしようとしても、
1.特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)
2.特定株主等によって支配された欠損等法人の資産の譲渡等損失額の損金不算入(法人税法60条の3)
の規定に道をふさがれ、またこの規定を回避するため、個人株主による株式取得、適格合併、また上記では説明を割愛しているが逆さ適格組織再編成をしたとしても抜け道はふさがれている。

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