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前払費用とは何か

前払費用とは、一定のサービスの提供を継続的に受ける場合に、先に支払った対価を来期以降に繰り越すことを目的とした経過勘定です。
会計学を勉強された方であれば、「一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。」(企業会計原則注解【注5】)という定義の方がしっくりとくるかもしれません。

このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるため、当期の費用とはせずに貸借対照表の資産の部に計上されることになります。
なお、一般的に、有形固定資産や無形固定資産の取得原価を使用できる各会計期間に費用配分する際に使用される用語が「(減価)償却」であり、前払費用を費用に計上する際には「(減価)償却」という用語は用いられません。

前払費用の貸借対照表表示

前払費用には、(短期)前払費用と長期前払費用の2つがあります。
当期の決算日を基準として
□費用化されるのが1年以内のもの:(短期)前払費用
□費用化されるのが1年超のもの:長期前払費用

(短期)前払費用であれば流動資産に計上され、長期前払費用であれば固定資産に計上されます。

説明の便宜上、(短期)と付けていますが、正しい勘定科目名はあくまで「前払費用」となっています。
詳しい理由は分かりませんが、実務上、「短期」を付ける勘定科目と付けない勘定科目が存在します。
また、中には「短期」も「長期」も付けない勘定科目もあります。

流動の勘定科目名固定の勘定科目名
前払費用長期前払費用
預け金長期預け金
短期貸付金長期貸付金
未収入金長期未収入金
繰延税金資産
未払費用長期未払費用
未払金長期未払金
預り金長期預り金
短期借入金長期借入金
リース債務

コラム「貸付金の仕訳と利息の注意点」

家賃の前払費用の仕訳

取引の内容

3月末において、月10万円の家賃を1年間分(4月~翌3月分)前払いした。
決算日は3月末日。

仕訳

支払時(3月末)
借方貸方
前払費用1,200,000預金1,200,000
翌期
借方貸方
地代家賃1,200,000前払費用1,200,000

保険料の前払費用の仕訳

取引の内容

9月末において、月10万円の保険料を1年間分(10月~翌9月分)前払いした。
決算日は3月末日。

仕訳

支払時(9月末)
借方貸方
保険料1,200,000預金1,200,000

※支払時に翌期に費用計上される部分を前払費用として処理する方法もあります。

決算時(3月末)
借方貸方
前払費用600,000保険料600,000
翌期
借方貸方
保険料600,000前払費用600,000

税務上の短期前払費用の特例

税務上の短期前払費用の特例と重要性の原則

理論的な仕訳は上記のとおりですが、企業会計上は重要性の原則というものがあります。

重要性の原則とは、企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる(企業会計原則注解【注1】)とする考え方のことです。
重要性の原則によれば、前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができます。

この企業会計の考え方が税務上も取り入れられ、いわゆる「短期前払費用の特例」と言われる税務上の特例があります。
法人税であれば法人税基本通達に、所得税であれば所得税基本通達にその規定があります。
法人税基本通達や所得税基本通達は、国税庁のホームページに記載されています。

法人税における短期前払費用の特例

法人税基本通達2-2-14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注)例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。

上記の(注)にあるように、借入金の支払利息については、短期前払費用の特例の適用はできないようになっています。

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所得税における短期前払費用の特例

所得税基本通達37-30の2(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。

注意点①重要性の原則との関係

短期前払費用の特例の適用にあたっては、実務上、慎重に判断しなければなりません。
その理由の1つが、すべての短期前払費用についてこの特例が認められる訳ではないからです。
平成12年1月25日に長崎地方裁判所において以下のような判決がなされました。

この事件は、浚渫(しゅんせつ)業を営む会社が、平成8年6月1日に裸傭船契約を締結し、傭船期間を平成8年6月1日~平成9年5月31日までとする傭船料(船のレンタル料)を5,000万円支払い、平成8年6月期決算において当該傭船料を全額損金の額に算入し申告を行った件について争われた事件です。
この判決では、傭船料のうち、平成8年6月分(1ヶ月分)の4,166,667円のみが損金に算入することが認められ、残りの11ヶ月分の45,833,333円については損金算入が認められませんでした。
税務上の短期前払費用の特例が、重要性の原則で認められた範囲を逸脱していないかどうかの判断については、前払費用の金額だけではなく、法人の財務内容に占める割合や影響などを総合的に考慮して判断する必要があるとしています。

前払費用にはこのようなリスクがあることから、M&Aを行う際は、財務デューデリジェンス(財務DD)や税務デューデリジェンス(税務DD)において、検討を行う必要があります。
コラム「デューデリジェンスとは」
コラム「デューデリジェンスの種類と必要な資格」

注意点②等質等量の役務提供

短期前払費用の特例の適用にあたっては、「等質等量」の役務提供が必要であると言われています。
「等質等量」の役務提供である、地代家賃、保険料などは問題なくこの特例の適用の対象となります。
ただし、雑誌や新聞の年間購読料、税理士報酬などについては、適用はされないと言われています。

注意点③支払日から1年以内

短期前払費用の特例は、国税庁の基本通達にあるように「支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合」、適用することができます。
そのため、例えば3月決算の会社において、3月末に5月~翌年4月分の家賃を支払ったとしても、翌年4月分というのは支払った日から1年を超えているため、この特例の適用はありません。

注意点④継続適用が必要

また、短期前払費用の特例は、国税庁の基本通達にあるように「継続して」適用する必要があります。
そのため、「前期は黒字だったので短期前払費用の特例を適用し、今期は赤字なので短期前払費用の特例は適用しない」というようなことはできません。

このように、短期前払費用の特例というのは、検討が必要な事項が多くあり税務リスクが存在する勘定科目になります。
M&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)や税務デューデリジェンス(税務DD)を行う際には、マネジメントインタビューを実施することにより税務リスクの兆候を掴めることがあります。
コラム「デューデリジェンスとマネジメントインタビュー」

短期前払費用の消費税の取扱い

法人税や所得税における短期前払費用の取扱いは先ほど見てきたとおりですが、課税事業者であれば消費税の取扱いも問題となります。
具体的には、仕入税額の控除は課税仕入れを行った課税期間において行うこととされていますが、支払時に課税仕入れを行ったとされるのか、実際の役務提供時に課税仕入れを行ったとされるのか、という課税仕入れの時期が問題となります。

結論としては、支払日の属する課税期間において課税仕入れを行ったものとされています。
そのため、短期前払費用の特例を適用したとしても、消費税の計算上、特に何か調整する必要はありません。

消費税基本通達11-3-8(短期前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した課税仕入れに係る支払対価のうち当該課税期間の末日においていまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。)につき所基通37-30の2又は法基通2-2-14《短期前払費用》の取扱いの適用を受けている場合は、当該前払費用に係る課税仕入れは、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱う。

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コラム「開業届の書き方パーフェクトガイド」
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