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退職給付の規定,範囲

退職給付の会計処理は、「退職給付に関する会計基準(以下、退職給付会計基準といいいます。)」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」に規定されています。
この退職給付会計基準において、退職給付とは、一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて支給されるものととされています。
そのため、労働の対価性が明確でない株主総会の決議又は指名委員会等設置会社における報酬委員会の決定が必要となる取締役、会計参与、監査役及び執行役のような役員の退職慰労金については、退職給付会計基準の適用の対象外となっています。

退職給付の制度

退職給付の制度は、大きく分けて
1.確定拠出制度
2.確定給付制度
の2つの制度があります。
確定拠出年金の会計処理と税務上の取扱いは、コラム「確定拠出年金の会計と税務」に記載しています。
このコラムでは、確定給付年金の会計処理と税務上の取扱いについて記載しています。

確定給付制度とは何か

確定給付制度とは、確定拠出制度以外の退職給付制度です(退職給付会計基準5)。

適格退職年金は、1962年から運用が始まり、厚生年金基金と並んで企業年金の主たる役割を果してきましたが、明確な積立て基準がなく、積立て不足や、受給権の保護が十分でありませんでした。
そのため、適格退職年金の制度が廃止されるとともに、2001年(平成13年)の確定給付企業年金法が成立し2002年(平成14年)から運用が始まりました。
確定給付年金は、英語ではDB(Defined Benefit pension)と呼ばれています(これに対し、確定拠出年金はDC(Defined Contribution pension)と呼ばれています)。

確定給付年金は、その名の通り将来の給付額があらかじめ決められているため、企業が掛金の拠出を決定し、その運用の責任も企業が負うこととなります。

確定給付年金の会計処理

退職給付引当金の計算式

退職給付引当金は、以下のようにして計算されます(退職給付会計基準39)。
退職給付債務
-年金資産
±未認識数理計算上の差異
±未認識過去勤務費用

ただし、年金資産の額が退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額を超える場合には、資産として計上します。

以下では各項目について見てきいきます。

退職給付債務

退職給付債務とは何か

退職給付債務とは、退職により見込まれる退職給付の総額(以下「退職給付見込額」という。)のうち、期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算されるものです(退職給付会計基準16)。

この退職給付債務は、原則として個々の従業員ごとに計算します。ただし、勤続年数、残存勤務期間、退職給付見込額等について標準的な数値を用いて加重平均等により合理的な計算ができると認められる場合には、当該合理的な計算方法を用いることができます(退職給付会計基準(注3))。

退職給付見込額の見積りにあたっては、合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮することとされており、その変動要因には予想される昇給等が含まれます。また、臨時に支給される退職給付等であってあらかじめ予測できないものは、退職給付見込額に含まれません(退職給付会計基準18,同(注5))。

退職給付債務は、年金数理計算(確率論や統計学を用いた年金の計算)により行います。
この計算は、年金数理計算の専門家であるアクチュアリーがいる計算機関に委託しているケースが多くなっています。

勤務費用

退職給付債務は、勤務費用の発生により増加します。
勤務費用とは、1期間の労働の対価として発生したと認められる退職給付です(退職給付会計基準8)。
従業員が一会計期間継続して勤務した場合、将来受給できる退職金が増加します。
これが勤務費用であり、退職給付債務を増加させます。

利息費用

退職給付債務は、利息費用の発生により増加します。
利息費用とは、割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息です(退職給付会計基準8)。
勤務費用は退職給付見込額のうち当期に発生したと認められる額を割り引いて計算することとされているため(退職給付会計基準17)、期末までの時の経過により費用が発生することとなり、これが利息費用となります。

退職金の支払

退職給付債務は、退職金の支払いにより減少します。
従業員が退職すると退職金が支払われ退職給付債務が減ることになります。
(退職金の支払に充てるために積み立てられていた年金資産も同時に減少します。)

数理計算上の差異

退職給付債務は、数理計算上の差異により増減します。
数理計算上の差異とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異です(退職給付会計基準11)。
例えば、当期中に退職すると見込んでいた退職者の数よりも実際の退職者の数の方が少なかった(多かった)場合、将来支払う必要がある退職金が増加(減少)することとなるため、退職給付債務が増減します。

過去勤務費用

退職給付債務は、過去勤務費用により増減します。
過去勤務費用とは、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分です(退職給付会計基準12)。
退職給付水準の増額(減額)改訂を行った場合、将来支払う必要がある退職金が増加(減少)することとなるため、退職給付債務が増減します。

年金資産

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年金資産とは何か

年金資産とは、特定の退職給付制度のために、その制度について企業と従業員との契約(退職金規程等)等に基づき積み立てられた、次のすべてを満たす特定の資産です(退職給付会計基準7)。
(1)退職給付以外に使用できないこと
(2)事業主及び事業主の債権者から法的に分離されていること
(3)積立超過分を除き、事業主への返還、事業主からの解約・目的外の払出し等が禁止されていること
(4)資産を事業主の資産と交換できないこと

そのため、年金の支払に充てるために企業が独自に積み立てている資産があったとしても、この要件に当てはまらず、退職給付引当金の計算に反映されません。

年金資産の額は、期末における時価(公正な評価額)により計算します(退職給付会計基準22)。

掛金の拠出

年金資産は、掛金の拠出により増加します。

期待運用収益

年金資産は、期待運用収益により増加します。
期待運用収益とは、年金資産の運用により生じると合理的に期待される計算上の収益です(退職給付会計基準10)。
期待運用収益は、期首の年金資産の額に合理的に期待される収益率(長期期待運用収益率)を乗じて計算されます(退職給付会計基準23)。
年金資産は債券や株式などにより運用されるため、収益を獲得すると期待され、年金資産が増加することになります。

数理計算上の差異

年金資産は、数理計算上の差異により増減します。
先ほども述べましたが、数理計算上の差異とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異です(退職給付会計基準11)。
例えば、当初見込んでいた期待運用収益よりも実際の運用成果の方が高かった(低かった)場合、年金資産が増加(減少)することとなります。

未認識数理計算上の差異

未認識数理計算上の差異とは、数理計算上の差異のうち当期純利益を構成する項目として費用処理(利益処理)されていないものです(退職給付会計基準11)。
その文字通り、認識しないこととするため、退職給付引当金の計算上、調整を行うこととなります。

未認識過去勤務費用

未認識過去勤務費用とは、過去勤務費用のうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものです(退職給付会計基準12)。
こちらも文字通り、認識しないこととするため、退職給付引当金の計算上、調整を行うこととなります。

中小企業における確定給付年金の会計処理

上場企業は監査法人の監査を受けており、その財務諸表は一般に公正妥当と認められる企業会計の基準(GAAP)に準拠して適正に表示されているというお墨付きをもらっていますが、非上場企業では、そのような財務諸表監査制度はないためほとんどの企業で何らかの簿外債務が存在しているのが実情です。

中小企業では、税法基準による会計処理(税務会計)を行っていれば実務的に問題ありません。
また、中小企業にはIFRSのような上場企業に適用される複雑な会計基準に精通している経理担当者がいないのが実情であり、またそのような会計処理ができたとしても税務の申告書が逆に複雑になってしまうため、実務的には税法基準による会計処理(税務会計)が行われています。
そのため、わざと隠すつもりはなく退職給付引当金が簿外債務となってしまっている場合も多くなっています。
M&A(Mergers and Acquisitions)の財務デューデリジェンス(財務DD)では、退職給付引当金が適切に計上されているかを確認する必要があります。
コラム「デューデリジェンスとは」
コラム「M&Aのデューデリジェンスにおける簿外債務(隠れ負債)の発見方法」

確定給付年金の仕訳

退職給付引当金の計算

先ほど見たように、退職給付引当金は、以下のようにして計算されます(退職給付会計基準39)。
退職給付債務
-年金資産
±未認識数理計算上の差異
±未認識過去勤務費用

文書では分かりにくいので具体的に仕訳で見ていきます。

退職給付債務に関する仕訳

勤務費用の発生の仕訳
借方貸方
退職給付費用××退職給付引当金××
利息費用の発生の仕訳
借方貸方
退職給付費用××退職給付引当金××
退職金の支払の仕訳

仕訳なし
※退職給付債務が減少するとともに年金資産も同時に減少します

数理計算上の差異の費用処理の仕訳

(有利差異の場合)

借方貸方
退職給付引当金××退職給付費用××

(不利差異の場合)

借方貸方
退職給付費用××退職給付引当金××
過去勤務費用の費用処理の仕訳

(有利差異の場合)

借方貸方
退職給付引当金××退職給付費用××

(不利差異の場合)

借方貸方
退職給付費用××退職給付引当金××

年金資産に関する仕訳

掛金の拠出の仕訳
借方貸方
退職給付引当金××預金××
期待運用収益の仕訳
借方貸方
退職給付引当金××退職給付費用××
数理計算上の差異の費用処理の仕訳

(有利差異の場合)

借方貸方
退職給付引当金××退職給付費用××

(不利差異の場合)

借方貸方
退職給付費用××退職給付引当金××

退職給付費用の計算

上記では、退職給付引当金という貸借対照表の視点から見ましたが、退職給付費用という損益計算書の視点から見ると以下のようにまとめることができます。

退職給付費用として、当期純利益を構成する項目に含めて計上します(退職給付会計基準14)。
(1)勤務費用
(2)利息費用
(3)期待運用収益
(4)数理計算上の差異に係る当期の費用処理額
(5)過去勤務費用に係る当期の費用処理額

M&Aの財務デューデリジェンス(財務DD)において、退職給付費用が適切に計上されているかを確認することになります。
貸借対照表の面から見ると、退職給付引当金が計上されていない場合は簿外債務(隠れ負債)が存在してしまっていることになります。
コラム「財務デューデリジェンスと事前依頼資料」
コラム「経理担当者から見たM&Aのデューデリジェンスの流れと注意点」

確定給付年金の税務上の取扱い

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確定給付企業年金法に基づいて拠出した掛金は、法人においては損金の額に算入され、個人事業主においては必要経費に算入されます。
それ以外のものについては損金(必要経費)に算入されません。
そのため、会計と税務が一致せず、税効果会計の適用が必要となります。

(法人税法施行令135条(確定給付企業年金等の掛金等の損金算入))
内国法人が、各事業年度において、次に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は信託金等若しくは預入金等の払込みに充てるための金銭を支出した場合には、その支出した金額(第二号に掲げる掛金又は保険料の支出を金銭に代えて株式をもつて行つた場合として財務省令で定める場合には、財務省令で定める金額)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
二 確定給付企業年金法(平成十三年法律第五十号)第三条第一項(確定給付企業年金の実施)に規定する確定給付企業年金に係る規約に基づいて同法第二条第四項(定義)に規定する加入者のために支出した同法第五十五条第一項(掛金)の掛金(同法第六十三条(積立不足に伴う掛金の拠出)、第七十八条第三項(実施事業所の増減)、第七十八条の二第三号(確定給付企業年金を実施している事業主が二以上である場合等の実施事業所の減少の特例)及び第八十七条(終了時の掛金の一括拠出)の掛金を含む。)又はこれに類する掛金若しくは保険料で財務省令で定めるもの

(所得税法施行令64条(確定給付企業年金規約等に基づく掛金等の取扱い))
事業を営む個人又は法人が支出した次の各号に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等は、当該各号に規定する被共済者、加入者、受益者等、企業型年金加入者、個人型年金加入者又は信託の受益者等に対する給与所得に係る収入金額に含まれないものとする。
二 確定給付企業年金法(平成十三年法律第五十号)第三条第一項(確定給付企業年金の実施)に規定する確定給付企業年金に係る規約に基づいて同法第二十五条第一項(加入者)に規定する加入者のために支出した同法第五十五条第一項(掛金)の掛金(同法第六十三条(積立不足に伴う掛金の拠出)、第七十八条第三項(実施事業所の増減)、第七十八条の二第三号(確定給付企業年金を実施している事業主が二以上である場合等の実施事業所の減少の特例)及び第八十七条(終了時の掛金の一括拠出)の掛金並びにこれに類する掛金で財務省令で定めるものを含む。)のうち当該加入者が負担した金額以外の部分
2 事業を営む個人が、前項各号に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等を支出した場合には、その支出した金額(確定給付企業年金法第五十六条第二項(掛金の納付)又は法人税法施行令附則第十六条第二項の規定に基づき、前項第二号に掲げる掛金又は同項第三号に掲げる掛金若しくは保険料の支出を金銭に代えて同法第五十六条第二項に規定する株式又は同令附則第十六条第二項に規定する株式をもつて行つた場合には、その時におけるこれらの株式の価額)は、その支出した日の属する年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。

小規模企業等における簡便法

上記では原則的な計算方法を見てきましたが、従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付に係る負債及び退職給付費用を計算することができることとされています(退職給付会計基準26)。

連結財務諸表上の取扱い

また上記では個別財務諸表を前提として見てきましたが、企業会計基準委員会と国際会計基準審議会(IASB)は、平成19年8月に「東京合意」(会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意)を公表し、国際財務報告基準(IFRS)とのコンバージェンスを図る観点から、平成24年に退職給付会計基準の改正が行われました。

この改正により、連結財務諸表において、オフバランスとなっていた未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用がオンバランスされることとなりました。
また、「退職給付引当金」及び「前払年金費用」という名称が、それぞれ「退職給付に係る負債」及び「退職給付に係る資産」に変更されました。
そして、包括利益計算書において、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用は、その他の包括利益に「退職給付に係る調整額」として計上されます。

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